ステロイド低反応性(論文紹介)

こんにちは!

 

さて、本日は以前に引き続き、ステロイド外用剤のお話を。

 

以前の記事はこちら↓↓

 

hirororo.hatenablog.jp

  

今回は、ステロイド低反応性のお話です。

すなわち、ステロイドの使用で患者さんが心配される点、ステロイドが効かなくなって、だんだん強い薬に変えていかなければならなくなるのではないか?

というところをひも解いていきたいと思います。

 

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※写真は内容とは関係ありません 

 

 

論文紹介

それではいきましょう!

今回ご紹介する論文はこちら!!

ジャジャン♫

 

Glucocorticoid resistance in atopic dermatitis associated with decreased expression of glucocorticoid receptor-α in peripheral blood mononuclear cells*1

タイトル訳: アトピー性皮膚炎におけるグルココルチコイド(ステロイド)低反応性は、抹消血中単核細胞(PBMC)のグルココルチコイド受容体α(GRα)の発現現象に関係している。

 

要約します:

アトピーの患者さんの中にはステロイド外用剤を使っていて、だんだんその効果が弱くなっていく場合がある。

それは、その患者さんを調べると、体の中の細胞のGRαという受容体が減少していることが分かった。

だから、ステロイド低反応性になるんじゃないの?

というお話です。

 

 著者はShigeki INUIさん、 Yasuyuki SUMIKAWAさん、 Hideo ASADAさん、 Satoshi ITAMIさんの4人です。

所属機関はDepartment of Regenerative Dermatology, Osaka University School of Medicine, Osaka, and Department of Dermatology, Nara Medical University, Nara, Japan

つまり大阪大学医学部と奈良医科大学の皮膚科の先生方ですね。

2010年に発表されています。

 

 

 

結果と考察

今回の患者さんは、13歳の頃からアトピー性皮膚炎を患っている、51歳の男性です。

患者と、ステロイド反応性低下のないアトピー患者6人、健常人3人とを比較しました。

 

抹消血中単核細胞(PBMC)中のGRαとGRβの両方を比較したが、GRαだけが、今回の患者で著しく減少していました。

(GRβはαに拮抗する受容体であると考えられています。)

 

このことから、GRβはステロイド低反応性にはあまり関与せず、GRαが関与していると考えられました。

すなわち、ステロイド外用剤を使用することによって、GRαが減少し、反応性が落ちる可能性があることを示唆しています。

 

 

アトピーガイドラインではどうか?

さてさて、日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018*2では、ステロイド低反応性について次のように記載されています。*3

 内服ステロイド薬で報告されているようなステロイド低反応性,または急速な効果の減弱(タキフィラキシー)の病態がステロイド外用薬でも生じるかは懸案となってきた.米国皮膚科学会のアトピー性皮膚炎ガイドラインには,専門家によりステロイド外用薬にタキフィラキシーの生じ得る可能性が指摘されているものの,その根拠となる研究や論文はないと記載されている

 タキフィラキシーとは、同じ薬を使用しているのに効果が出なくなることで、いわゆる「ステロイドが効かなくなる」ということを指しています。*4

つまり、ステロイドを使っていたら、だんだん効かなくなるケースがあるかも知れないけど、今のところはっきりした根拠はないよ。

と書かれています。

 

 

 

本報告だけでは不十分なところ

ところが、ガイドラインよりも以前に発表された本論文では、まさにその「ステロイドを使っていると効かなくなる人がいるよ!」ということが報告されているわけです。

にも関わらず、「はっきりとした根拠がない」と述べられている理由、それは、規模の小ささです。

今回の報告では、ステロイド反応性低下がみられる患者は一人、比較対象も全部で9人となっているため、極めてまれなケースの可能性があると著者らは語っています。

 

また、今回は技術上の問題から、抹消血中単核細胞(PBMC)を調べていますが、アトピーにおいてメインとなるのは、やはり皮膚に存在する免疫細胞になります。

(皮膚細胞中のGRαのみを検出することが難しいようです)

 

さらに、近年は、TNF-α*5がGRを介さずに細胞外キナーゼのシグナル経路を変えることによって、ステロイドの反応性を減少させることが報告されています。*6

 

ですので、そのあたりの細胞や経路についても調べていかなければ、本報告だけでは、「ステロイド低反応性を説明できる!」とはならないわけですね。

 

 

まとめ

アトピー性皮膚炎のガイドラインによれば、

外用剤の使用によってステロイド低反応性が引き起こされるのかどうかは、曖昧なところとなっています。

格好良く言えば、「根拠がない」

格好悪く言えば、「まだわかりません」

ということだと思います。

はっきりせずに申し訳ないですが、それが真実だろうと思います。 

 

ただし、本論文で紹介されているように、実際にステロイドが効かない患者さんは存在するものと思われます。

本論文では、GRαの減少がその要因ではないか?と考えられました。

しかしながら、ステロイド低反応性の原因は他にも考えられ、「そもそも、遺伝的にもともと効かない」といったパターンも考えられますし、TNF-αなどの他の因子が関与している可能性も挙げられています。

 

今後、研究が進んで、ガイドラインにも、ステロイド低反応性についての記述が加筆されていくかもしれませんね。

 

 

 

 

本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました!\(^o^)/

 

 

 

 舌下免疫療法(経口免疫療法)の記事はこちら↓↓

 

hirororo.hatenablog.jp

 

*1:Glucocorticoid resistance in atopic dermatitis associated with decreased expression of glucocorticoid receptor-alpha in peripheral blood mononuclear cells. Inui S, Sumikawa Y, Asada H, Itami S. J Dermatol. 2010 May;37(5):496-9. doi: 10.1111/j.1346-8138.2010.00866.x.

*2:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018.公益社団法人日本皮膚科学会. 一般社団法人日本アレルギー学会. アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会

*3:https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/atopic_GL2018.pdf#search='%E3%82%A2%E3%83%88%E3%83%94%E3%83%BC%E6%80%A7%E7%9A%AE%E8%86%9A%E7%82%8E+%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3'

*4:https://health.joyplot.com/HealthWordsWiki/?%E3%82%BF%E3%82%AD%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%A9%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%BC

*5:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%85%AB%E7%98%8D%E5%A3%8A%E6%AD%BB%E5%9B%A0%E5%AD%90

*6:Onda K, Nagashima M, Kawakubo Y, Inoue S, Hirano T, Oka K. Mitogen-activated protein kinase kinase 1/extracellular signal-regulated kinase (MEK-1/ERK) inhibitors sensitize reduced glucocorticoid response mediated by TNFalpha in human epidermal keratinocytes (HaCaT). Biochem Biophys Res Commun. 2006 Dec 8;351(1):266-72. Epub 2006 Oct 19.