赤ちゃんのアレルギーの原因について解説~皮膚の炎症がキーポイント~

こんにちは!

 

 

今回は
”赤ちゃんの食物アレルギーの原因”
について解説していきます!

 

結論から申し上げると、
①皮膚の炎症
②経皮的なアレルゲンの接触
の二点が食物アレルギーの原因と言えます。 

 

本記事が、食物アレルギーに関わる方々の参考になれば幸いです。

 

※既にアレルギーを発症している場合は、命に関わりますので、必ず医師の指示に従ってください。

 

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※画像はイメージです。本文の内容を反映しているものではありません 。

  

 

食物アレルギーの定義:そもそも食物アレルギーとは

 「食物アレルギーの診療の手引き2017」によると、以下のように定義されています。*1

定 義
食物アレルギーとは、「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象」をいう。
非免疫学的機序による食物不耐症(代謝性疾患、薬理学的な反応、毒性食物による反応など)は含まない。

 

少し専門的で分かりにくいですね。

簡単にしてみましょう。

 

「抗原特異的な免疫学的機序を介して」とは、
特定の食品に対して、体の免疫機能が作用して
と読み替えることができます。

「惹起」は「引き起こされる」という意味です。

 

すなわち、食物アレルギーとは
「特定の食品に対して、免疫機能が作用して、体に不都合な症状が出てしまうこと」
と解釈できます。

 

理解しやすくなりましたか?(^^)

 

 

食物アレルギーの原因:食物アレルギーは食べる前から始まっている!

食物アレルギーの定義は、上述の通りです。

そして
「アレルゲンとなる食物を食べると、食物アレルギーが発症する(症状が出る)」

ということは、この記事に来て下さった方なら、
当然理解されていることと思います。

 

ところが、
「そもそも、なぜアレルギー患者が、特定の食品に対してアレルギー反応を起こすようになるのか?」
という問いに答えることは、
難しいのではないでしょうか??

 

実は、食物アレルギーは、
次の2つの過程を経て発症する
ということが近年明らかになってきました。*2

 

アトピー性皮膚炎等によって
”炎症の起こっている皮膚”から、
食物アレルゲンが侵入することによって、
アレルギーを発症する準備が整う。

 

②準備が整ったアレルゲンを口から食べることで、
食物アレルギーが発症する

 

 

過去の誤った認識:昔と言ってることが違う

「いやいや、まだ腸管が未成熟な、早い時期に離乳食を食べ始めるからアレルギーになるんでしょ?」と思ったそこのあなた。

そうなんです。

実は、2000年ごろまで
専門家の間でも、
そう信じられていました。

2000年の米国小児科学会では、
乳幼児期には、アレルゲン性の高い食品を
避けることが推奨されていました。
*3

 

 

食物アレルギーのパラダイムシフト:過去の常識は覆された!

ところがどっこい。

2003年、Lackらは
それまでの常識を覆す論文を
発表しました。*4

その内容は
「ピーナッツを含む保湿オイルを塗った子供達は、ピーナッツアレルギーになる割合が約8倍に増加した。
特に、アレルギーを発症した子供の皮膚には、炎症が生じていた。」というものでした。


この発表を受けて、
食物アレルギーは皮膚から侵入することが
始まりであるとの認識が広まりました。

 

これは、専門的には”経皮感作”と呼ばれるものです。

できれば専門用語は多用したくないのですが、
これだけは、とても重要なワードなので、
是非とも覚えていただきたいです。

 

「経皮」とは
「皮膚を介して」「皮膚を通して」
という意味です。

そして「感作」とは
「アレルゲンに対して反応する準備が整う」
すなわち
「アレルギーの準備が整う」
という意味になります。

また、
ここでの「アレルギー」は
「食物アレルギー」を指します。 

 

つまり「経皮感作」とは
「皮膚を通して、食物アレルギーの準備が整う」
という意味になります。

 

2008年、Lackは世界で初めて
2重抗原曝露仮説
(dual allergen exposure hypothesis)
というものを提唱しました。*5
経皮感作の概念は、この仮説に含まれるものです。

※2020年現在では、
”仮説”というよりも
”真実”に近いだろうと思われます。

  

 

経皮感作を示唆する数々の論文:食品のアレルゲンは皮膚から侵入する

Lackらの論文を皮切りに、
経皮感作を示唆する研究が
次々と報告されています。

 

調理人・フェイスパックの経皮感作:米、小麦、果物、野菜、魚、エビ、イカ、キュウリ

例えば、2015年には、Inomataらが調理人やフェイスパックによる経皮感作を報告しています。*6

この報告では、
14名の調理人には米、小麦、果物、野菜、魚、エビ、イカなどの多様な食品が、
また1名のフェイスパックの使用者には、
含まれていたキュウリが経皮感作していました。

 

患者は、まず食品に対して接触性じんましんを発症し、
その後食物アレルギーを発症していました。

さらに、患者の86.7%にはアトピー性皮膚炎又は手の湿疹が確認されていました。

 

以上の内容より、
①様々な食品が経皮感作する
②”アトピー性皮膚炎”や”湿疹”が経皮感作のリスクになる
ということが読み取れます。

 

石鹸の経皮感作:小麦

他にも日本では、2010年頃、
加水分解小麦を含む石鹸の利用者が、
小麦の食物アレルギーを発症した事例が
相次いで報告され、社会問題となりました。*7

この事例は、石鹸中に含まれていた
小麦タンパク質に経皮感作され、
後に小麦を食べた際にアレルギーを
発症したものです。

 

化粧品の経皮感作:大豆

2015年、大豆成分含有の化粧品
利用後に大豆アレルギーを発症した報告もあります。*8

 

乳児の経皮感作:鶏卵

2016年には、
Shodaらの論文の中で
「生後1~4ヶ月の間の皮膚の炎症が、
卵アレルギーのリスクを高める」
という内容が示されています。*9

 

 

食物アレルギー診療の手引き2017

ここまで、
食物アレルギーの過去の常識が覆され、
”経皮感作”という新しい概念が誕生した
歴史についてご紹介してきました。

 

ではここで、現在の日本のガイドラインを見てみましょう。 

以下、「食物アレルギーの診療の手引き2017」からの引用です。*10

リ スク因子
 食物アレルギーの発症リスク因子として、家族歴、遺伝的素因、皮膚バリア機能、出生季節などが報告されているが、なかでも乳児期のアトピー性皮膚炎の存在が特に重要である。
 アトピー性皮膚炎のある児は健常児と比較して食物へ感作されやすい(オッズ比6.18)
食物アレルギー診療ガイドライン2016
Tsakok T, et al. J Allergy Clin Immunol 2016; 137: 1071-8.

 

「食物へ感作されやすい」とは、
簡単に言うと
「食物に対してアレルギーを起こす準備が整いやすい」
と言い換えられ、つまり
アトピー性皮膚炎があると、食物アレルギーになりやすくなる」
という意味になります。

 

したがって、やはり
「皮膚の状態を良好に保つこと」
がとても重要だと考えられるわけですね!

 

 

まとめ

以上に述べたように、
食物アレルギーに関する認識は
近年、目まぐるしく変わってきています。

 

本記事で解説したように、現在は
赤ちゃんの食物アレルギーの原因は
①皮膚の炎症
②経皮的なアレルゲンの接触
であると考えられています。

 

また、②の「経皮的なアレルゲンの接触」を減らすことは難しいです。
目に見えないような空気中のアレルゲンとの接触でも、
アレルギーのリスクになることが知られているからです。*11

 

従って、子どもの皮膚を健康に保ち
アトピー性皮膚炎等があれば早く治療する)、
①の「皮膚の炎症」をいかに早く
抑えることができるかが、
食物アレルギーの予防に
重要であると考えられます。


 

本記事が、食物アレルギーに関わる方々の参考になれば幸いです。

アレルギーで苦しむ人が、
少しでも減りますように(^^)

 

 

本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました!\(^o^)/

 

 

 

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論文紹介はこちら↓↓

hirororo.hatenablog.jp

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*1:「食物アレルギーの診療の手引き2017」検討委員会. AMED研究班による食物アレルギーの診療の手引き2017. (2017).

*2:Lack, G. Epidemiologic risks for food allergy. J. Allergy Clin. Immunol. 121, 1331–1336 (2008).

*3:American Academy of Pediatrics. Committee on Nutrition. Hypoallergenic Infant Formulas. Pediatrics 106, 346–349 (2000).

*4:Lack, G., Fox, D., Northstone, K. & Golding, J. Factors Associated with the Development of Peanut Allergy in Childhood. N. Engl. J. Med. 348, 977–85 (2003).

*5:Lack, G. Epidemiologic risks for food allergy. J. Allergy Clin. Immunol. 121, 1331–1336 (2008).

*6:Inomata, N., Nagashima, M., Hakuta, A. & Aihara, M. Food allergy preceded by contact urticaria due to the same food: Involvement of epicutaneous sensitization in food allergy. Allergol. Int. 64, 73–78 (2015).

*7:厚生労働省. 加水分解コムギ末を含有する医薬部外品・化粧品の使用上の注意事項等について. (2010). Available at:
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000uaiu-img/2r9852000000uamo.pdf

*8:Yagami, A. et al. Case of anaphylactic reaction to soy following percutaneous sensitization by soy-based ingredients in cosmetic products. J. Dermatol. 42, 917–918 (2015).

*9:Shoda, T. et al. Timing of eczema onset and risk of food allergy at 3 years of age: A hospital-based prospective birth cohort study. J. Dermatol. Sci. 84, 144–148 (2016).

*10:「食物アレルギーの診療の手引き2017」検討委員会. AMED研究班による食物アレルギーの診療の手引き2017. (2017).

*11:Brough, H. A. et al. Peanut allergy: Effect of environmental peanut exposure in children with filaggrin loss-of-function mutations. J. Allergy Clin. Immunol. 134, 867–875.e1 (2014).