トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl buffer)の原理を解説

こんにちは!

 

今回は、生命科学実験で代表的な緩衝液である、トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl buffer)の仕組みをご紹介します。

通常、「トリスヒドロキシメチルアミノメタン(tris(hydroxymethyl)aminomethane)」の頭を取ってトリス(Tris)と呼ばれることが多いです。

また、緩衝液はバッファー(Buffer)とも言います。

 

この記事を読んでほしい人:

生命科学実験を始めた、始める予定の人

・緩衝液を調製しているが、原理が分からない人

・トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl buffer)を使用している人

 

 

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 ※画像はイメージです。本文の内容を反映しているものではありません 。

 

 

緩衝液とは何か

緩衝液とは、外から酸や塩基を加えても、
pHが変化しにくい溶液のことです。

例えば、純水に強酸であるHClや強塩基であるNaOHを加えると、あっという間にpHが傾いてしまいますが、緩衝液中ではpHがほぼ一定に保たれます。

緩衝液の働きにより、目的の成分や試薬を加えても、pHを変化させずに実験が行えるようになります。

緩衝液は、それ自体が実験の対象になるものではなく、溶媒や希釈液として用いられることが多いものです。

 

 

トリス(Tris)の構造式

トリスの分子式はC4H11NO3で表されます。
構造式は以下の通りです。

 

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トリスは弱塩基なので、普段はほとんど電離していません。

 

トリス(Tris)と酸の反応

ここで、このトリスに酸(H+)を加えてみましょう。

すると以下の反応が起きます。

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H+がトリス(Tris)に取り込まれてしまったので、溶液全体としてはpHが変化しません。

酸に対して、緩衝能を有しているわけですね。

 

しかしながら、これだけでは
緩衝液として不十分です。

トリスは塩基を中和することが
できないからです。

 

試しに、トリスに塩基(OH-)を
加えてみましょう。

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はい!何も起こりません!

純粋なトリスはOH-と反応しませんので、
塩基を加えた分だけ、pHが塩基性アルカリ性)に傾いてしまいます。

 

これでは緩衝液として機能していませんが、
このトリスに強酸を加えることで、問題は解決します。

 

 

トリス(Tris)の共役酸の調製

ここで、トリスに強酸であるHClを加えてみましょう。

 

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pHは変化しませんが、
HClから出たH+を、トリスが
受け取った状態(共役酸)になります。

H+を受け取った状態のことを
共役酸と呼びます。*1

 ※例えば、アンモニアNH3の共役酸は
アンモニウムイオンNH4+になります。

 

 

トリス(Tris)の共役酸と塩基の反応

ではここで、さきほど調製したトリスの共役酸に塩基(OH-)を加えてみましょう。

 

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共役酸がH+を放出してOH-を中和してくれましたね!

これで塩基に対する緩衝能も獲得できました。

 

 

トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl Buffer)の調製

では最後に、トリスとその共役酸の両方が存在するように調製すれば、
トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl Buffer)
出来上がりです
!!

トリス溶液に塩酸を加えていくことで、
トリスとその共役酸の両方が共存した溶液をつくることができます。

 

このとき、共役酸はH+を放出しようとしますが、弱塩基であるトリスがH+を受け取ってしまいます。

 

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共役酸は「私ばっかり悪いから」と言って、H+を放出し、
トリスは「誰も取らないなら」と言って、H+を受けとります。

ところが、H+を受け取ったトリスは共役酸になってしまっているので、またH+を放出し、トリスがそれを受け取る、
というサイクルがグルグル繰り返されて、
平衡状態が成り立ちます。

 

 

最後に、トリス塩酸緩衝液に
①酸を加えるパターン
②塩基を加えるパターン
の反応を見てみましょう。

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これで、酸(H+)と塩基(OH-)のどちらを加えても、pHが変化しなくなりましたね!!

 

 

まとめ

今回は、トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl buffer)の原理についてご紹介しました。

いかがでしたか?

 

大学で生命科学実験を始めると、必ず登場する緩衝液。

肝になる部分は、「H+を受け取る構造と、H+を与える構造が共存している」という状態です。

 

本記事が少しでも参考になれば幸いです。

皆さんの実験が上手くいきますように。

 

 

本日もお読みいただき、ありがとうございました! \(^o^)/

 

 

 

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