リン酸緩衝液(リン酸バッファー)の原理を解説
こんにちは!
今回は、生命科学実験で代表的な緩衝液である、リン酸緩衝液(リン酸バッファー)の仕組みをご紹介します。
リン酸緩衝液の調製には
①リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4
②リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4
の二つが登場します。
似ているようで違うこの二つの特性を理解できれば、リン酸緩衝液の原理はバッチリです!
この記事を読んでほしい人:
・緩衝液の原理を知りたい人
・リン酸緩衝液(リン酸バッファー)を使用している人
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を使用している人
※画像はイメージです。本文の内容を反映しているものではありません 。
- 緩衝液とは何か
- リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4の構造式と特性
- リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4と酸の反応
- リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4の構造式と特性
- リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4と塩基の反応
- リン酸緩衝液(リン酸バッファー)の調製
- まとめ
緩衝液とは何か
緩衝液とは、外から酸や塩基を加えても、
pHが変化しにくい溶液のことです。
例えば、純水に強酸であるHClや強塩基であるNaOHを加えると、あっという間にpHが傾いてしまいますが、緩衝液中ではpHがほぼ一定に保たれます。
緩衝液の働きにより、目的の成分や試薬を加えても、pHを変化させずに実験が行えるようになります。
緩衝液は、それ自体が実験の対象になるものではなく、溶媒や希釈液として用いられることが多いものです。
リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4の構造式と特性
リン酸水素二ナトリウムの分子式はNa2HPO4で表されます。
構造式は以下の通りです。
リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4は水に溶けると、Na+が電離することでHPO42-となります。
さらに、このHPO42-が以下のようにH+を受け取り、OH-が生成されることで、その水溶液は弱塩基性を示します。
ただし、リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4は弱塩基のため、多くはHPO42-の状態で存在しています。
リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4と酸の反応
ここで、このHPO42-に酸(H+)を加えてみましょう。
すると以下の反応が起きます。
HPO42-がH+を受け取ってしまうため、溶液全体としてはpHが変化していませんね!
酸に対して、緩衝能を有しています。
しかしながら、これだけでは緩衝液として不十分です。
HPO42-は、塩基をほとんど中和することができないからです。
試しに、HPO42-に塩基(OH-)を加えてみましょう。
HPO42-はOH-を僅かに中和することができますが、
この反応は左に傾いているため、ほとんど緩衝作用を示しません。
※ただし、OH-を大量に添加した場合は平衡は右に寄っていきます。
そこで、次にリン酸二水素ナトリウムNaH2PO4の反応について見ていきましょう。
リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4の構造式と特性
リン酸二水素ナトリウムの分子式はNaH2PO4で表されます。
構造式は以下の通りです。
リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4は
リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4の共役酸です。
共役酸とは、ある物質がH+を受け取った状態のことです。*1
※例えば、アンモニアNH3の共役酸はアンモニウムイオンNH4+になります。
リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4は水に溶けると、Na+が電離することでH2PO4-となります。
H2PO4-は以下のようにH+を放出し、その水溶液は弱酸性を示します。
ただし、リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4は弱酸のため、多くはH2PO4-の状態で存在しています。
リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4と塩基の反応
ではここで、H2PO4-に塩基(OH-)を加えてみましょう。
H2PO4-がH+を放出し、OH-を中和してくれましたね!
塩基に対して、緩衝能を有しています。
ちなみ、H2PO4-にH+を加えた場合は、以下の反応が起こりますが、平衡が左に傾いているので、ほとんど緩衝作用を示しません。
※H+を大量に添加した場合は平衡は右に寄っていきます。
リン酸緩衝液(リン酸バッファー)の調製
では最後に、
①リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4 ⇒ HPO42-
②リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4 ⇒ H2PO4-
の両方が存在するように調製すれば、リン酸緩衝液(リン酸バッファー)の出来上がりです!!
この二つが混在しているとき、共役酸であるH2PO4-はH+を放出しますが、弱塩基であるHPO42-がH+を受け取ってしまいます。
共役酸であるH2PO4-は「私ばっかり悪いから」と言って、H+を放出し、
弱塩基であるHPO42-は「誰も取らないなら」と言って、H+を受けとります。
ところが、H+を受け取ったHPO42-は共役酸であるH2PO4-になってしまっているので、またH+を放出し、HPO42-がそれを受け取る、
というサイクルがグルグル繰り返されて、
平衡状態が成り立ちます。
最後に、リン酸緩衝液(リン酸バッファー)に
①酸を加えるパターン
②塩基を加えるパターン
の反応を見てみましょう。
これで、酸(H+)と塩基(OH-)のどちらを加えても、pHが変化しなくなりましたね!!
まとめ
今回は、リン酸緩衝液(リン酸バッファー)の原理についてご紹介しました。
いかがでしたか?
大学で生命科学実験を始めると、必ず登場する緩衝液。
肝になる部分は、「H+を受け取る構造と、H+を与える構造が共存している」という状態です。
なお、実際の生化学実験においては、0.9w/v%生理食塩水に調製することで、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline:PBS)として用いることが多いです。
塩分が入っているだけなので、緩衝液の原理としては、今回ご紹介した内容と同じになります。
本記事が少しでも参考になれば幸いです。
皆さんの実験が上手くいきますように。
本日もお読みいただき、ありがとうございました! \(^o^)/
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