炭酸塩-重炭酸緩衝液の原理を解説

こんにちは!

 

今回は、生命科学実験で用いられる、炭酸塩-重炭酸衝液(carbonate-bicarbonate buffer:CO32- - HCO3-の仕組みをご紹介します。

 

炭酸塩-重炭酸衝液(炭酸塩-重炭酸バッファー)の調製には
①炭酸ナトリウムNa2CO3
(Sodium carbonate)
②炭酸水素ナトリウムNaHCO3
(Sodium bicarbonate:Sodium hydrogen carbonate)
の二つが登場します。

 

似ているようで違うこの二つの特性を理解できれば、炭酸緩衝液の原理はバッチリです!

 

 

この記事を読んでほしい人:

生命科学実験を始めた、始める予定の人

・緩衝液の原理を知りたい人

・炭酸塩-重炭酸緩衝液(carbonate-bicarbonate buffer)を使用している人

 

 

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 ※画像はイメージです。本文の内容を反映しているものではありません 。

 

 

緩衝液とは何か

緩衝液とは、外から酸や塩基を加えても、
pHが変化しにくい溶液のことです。

例えば、純水に強酸であるHClや強塩基であるNaOHを加えると、あっという間にpHが傾いてしまいますが、緩衝液中ではpHがほぼ一定に保たれます。

緩衝液の働きにより、目的の成分や試薬を加えても、pHを変化させずに実験が行えるようになります。

緩衝液は、それ自体が実験の対象になるものではなく、溶媒や希釈液として用いられることが多いものです。

 

 

炭酸塩:炭酸ナトリウムNa2CO3の構造式と特性

まずは炭酸ナトリウムについて見ていきましょう。

炭酸ナトリウムの分子式はNa2CO3で表されます。
構造式は以下の通りです。

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炭酸ナトリウムNa2CO3は水に溶けると、2つのNa+が電離することでCO32-となります。

さらに、このCO32-が以下のようにH+を受け取り、OH-が生成されることで、その水溶液は塩基性を示します。(酸を中和できる、塩基としての働きがある)

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次に炭酸水素ナトリウムNaHCO3の反応について見ていきましょう。 

 

 

重炭酸塩:炭酸水素ナトリウムNaHCO3の構造式と特性

炭酸水素ナトリウムの分子式はNaHCO3で表されます。
構造式は以下の通りです。

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炭酸水素ナトリウムNaHCO3
炭酸ナトリウムNa2CO3共役酸です。

共役酸とは、ある物質がH+を受け取った状態のことです。*1

 ※例えば、アンモニアNH3の共役酸はアンモニウムイオンNH4+になります。

 

炭酸水素ナトリウムNaHCO3は水に溶けると、Na+が電離することでHCO3-となります。

HCO3-は、中性付近の水溶液中では、以下のようにH+受け取り、その水溶液は塩基性を示します。

ただし、塩基性条件下では、下記2番目の反応式のようにH+を放出し、塩基に対して緩衝作用を示します。(塩基を中和できる、酸としての働きがある)

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炭酸塩-重炭酸緩衝液の調製

では最後に、

①炭酸ナトリウムNa2CO3 ⇒ CO32-
(Sodium carbonate)
②炭酸水素ナトリウムNaHCO3
 ⇒ HCO3-
(Sodium bicarbonate:Sodium hydrogen carbonate)

の両方が存在するように調製すれば、炭酸塩-重炭酸衝液(carbonate-bicarbonate buffer)の出来上がりです!!

 

この二つが混在しているとき、共役酸であるHCO3-はH+を放出しますが、塩基であるCO32-がH+を受け取ってしまいます。

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共役酸であるHCO3-は「私ばっかり悪いから」と言って、H+を放出し、
塩基であるCO32-は「誰も取らないなら」と言って、H+を受けとります。

ところが、H+を受け取ったCO32-共役酸であるHCO3-になってしまっているので、またH+を放出し、CO32-がそれを受け取る、
というサイクルがグルグル繰り返されて、
平衡状態が成り立ちます。

 

ポイントは、この溶液中ではH+を受け取る構造と、H+を与える構造が共存しているというところです。

 

最後に、炭酸塩-重炭酸衝液(carbonate-bicarbonate buffer)
①酸を加えるパターン
②塩基を加えるパターン
の反応を見てみましょう。

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これで、酸(H+)と塩基(OH-)のどちらを加えても、pHが変化しなくなりましたね!!

 

 

まとめ

今回は、炭酸塩-重炭酸衝液(carbonate-bicarbonate buffer)の原理についてご紹介しました。

いかがでしたか?

 

大学で生命科学実験を始めると、必ず登場する緩衝液。

肝になる部分は、「H+を受け取る構造と、H+を与える構造が共存している」という状態です。

 

補足:今回ご紹介した緩衝液は、ヒトの血液中のpHを7.4付近に保つ役割を担っている重炭酸緩衝系とは少し異なります。
重炭酸緩衝系は炭酸-重炭酸(carbonic acid-bicarbonate:CO2 - HCO3-)の緩衝作用になります。

 

本記事が少しでも参考になれば幸いです。

皆さんの実験が上手くいきますように。

 

 

本日もお読みいただき、ありがとうございました! \(^o^)/

 

 

 

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