リン酸緩衝液(リン酸バッファー)の原理を解説

こんにちは!

 

今回は、生命科学実験で代表的な緩衝液である、リン酸緩衝液(リン酸バッファー)の仕組みをご紹介します。

 

リン酸緩衝液の調製には
①リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4
②リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4
の二つが登場します。

 

似ているようで違うこの二つの特性を理解できれば、リン酸緩衝液の原理はバッチリです!

 

 

この記事を読んでほしい人:

・緩衝液の原理を知りたい人

・リン酸緩衝液(リン酸バッファー)を使用している人

・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を使用している人

 

 

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 ※画像はイメージです。本文の内容を反映しているものではありません 。

 

 

緩衝液とは何か

緩衝液とは、外から酸や塩基を加えても、
pHが変化しにくい溶液のことです。

例えば、純水に強酸であるHClや強塩基であるNaOHを加えると、あっという間にpHが傾いてしまいますが、緩衝液中ではpHがほぼ一定に保たれます。

緩衝液の働きにより、目的の成分や試薬を加えても、pHを変化させずに実験が行えるようになります。

緩衝液は、それ自体が実験の対象になるものではなく、溶媒や希釈液として用いられることが多いものです。

 

 

リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4の構造式と特性

リン酸水素二ナトリウムの分子式はNa2HPO4で表されます。
構造式は以下の通りです。

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リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4は水に溶けると、Na+が電離することでHPO42-となります。

さらに、このHPO42-が以下のようにH+を受け取り、OH-が生成されることで、その水溶液は塩基性を示します。

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ただし、リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4弱塩基のため、多くはHPO42-の状態で存在しています。

 

 

リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4と酸の反応

ここで、このHPO42-に酸(H+)を加えてみましょう。

すると以下の反応が起きます。

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HPO42-がH+を受け取ってしまうため、溶液全体としてはpHが変化していませんね!

酸に対して、緩衝能を有しています。

 

しかしながら、これだけでは緩衝液として不十分です。

HPO42-は、塩基をほとんど中和することができないからです。

 

試しに、HPO42-に塩基(OH-)を加えてみましょう。

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HPO42-はOH-を僅かに中和することができますが、
この反応は左に傾いているため、ほとんど緩衝作用を示しません。

※ただし、OH-を大量に添加した場合は平衡は右に寄っていきます。

 

そこで、次にリン酸二水素ナトリウムNaH2PO4の反応について見ていきましょう。 

  

 

リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4の構造式と特性

リン酸二水素ナトリウムの分子式はNaH2PO4で表されます。
構造式は以下の通りです。

f:id:Hirororo:20210111234950j:plain

 

リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4
リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4共役酸です。

共役酸とは、ある物質がH+を受け取った状態のことです。*1

 ※例えば、アンモニアNH3の共役酸はアンモニウムイオンNH4+になります。

 

リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4は水に溶けると、Na+が電離することでH2PO4-となります。

H2PO4-は以下のようにH+を放出し、その水溶液は弱酸性を示します。

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ただし、リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4弱酸のため、多くはH2PO4-の状態で存在しています。

 

 

リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4と塩基の反応

ではここで、H2PO4-に塩基(OH-)を加えてみましょう。

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H2PO4-がH+を放出し、OH-を中和してくれましたね!

塩基に対して、緩衝能を有しています。

 

 

ちなみ、H2PO4-にH+を加えた場合は、以下の反応が起こりますが、平衡が左に傾いているので、ほとんど緩衝作用を示しません。

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※H+を大量に添加した場合は平衡は右に寄っていきます。

 

 

リン酸緩衝液(リン酸バッファー)の調製

では最後に、

①リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4 ⇒ HPO42-

②リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4 ⇒ H2PO4-

の両方が存在するように調製すれば、リン酸緩衝液(リン酸バッファー)の出来上がりです!!

 

この二つが混在しているとき、共役酸であるH2PO4-はH+を放出しますが、弱塩基であるHPO42-がH+を受け取ってしまいます。

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共役酸であるH2PO4-は「私ばっかり悪いから」と言って、H+を放出し、
弱塩基であるHPO42-は「誰も取らないなら」と言って、H+を受けとります。

ところが、H+を受け取ったHPO42-共役酸であるH2PO4-になってしまっているので、またH+を放出し、HPO42-がそれを受け取る、
というサイクルがグルグル繰り返されて、
平衡状態が成り立ちます。

 

 

最後に、リン酸緩衝液(リン酸バッファー)
①酸を加えるパターン
②塩基を加えるパターン
の反応を見てみましょう。

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これで、酸(H+)と塩基(OH-)のどちらを加えても、pHが変化しなくなりましたね!!

 

 

まとめ

今回は、リン酸緩衝液(リン酸バッファー)の原理についてご紹介しました。

いかがでしたか?

 

大学で生命科学実験を始めると、必ず登場する緩衝液。

肝になる部分は、「H+を受け取る構造と、H+を与える構造が共存している」という状態です。

 

なお、実際の生化学実験においては、0.9w/v%生理食塩水に調製することで、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline:PBSとして用いることが多いです。

塩分が入っているだけなので、緩衝液の原理としては、今回ご紹介した内容と同じになります。

 

本記事が少しでも参考になれば幸いです。

皆さんの実験が上手くいきますように。

 

 

本日もお読みいただき、ありがとうございました! \(^o^)/

 

 

 

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トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl buffer)の原理を解説

こんにちは!

 

今回は、生命科学実験で代表的な緩衝液である、トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl buffer)の仕組みをご紹介します。

通常、「トリスヒドロキシメチルアミノメタン(tris(hydroxymethyl)aminomethane)」の頭を取ってトリス(Tris)と呼ばれることが多いです。

また、緩衝液はバッファー(Buffer)とも言います。

 

この記事を読んでほしい人:

生命科学実験を始めた、始める予定の人

・緩衝液を調製しているが、原理が分からない人

・トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl buffer)を使用している人

 

 

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 ※画像はイメージです。本文の内容を反映しているものではありません 。

 

 

緩衝液とは何か

緩衝液とは、外から酸や塩基を加えても、
pHが変化しにくい溶液のことです。

例えば、純水に強酸であるHClや強塩基であるNaOHを加えると、あっという間にpHが傾いてしまいますが、緩衝液中ではpHがほぼ一定に保たれます。

緩衝液の働きにより、目的の成分や試薬を加えても、pHを変化させずに実験が行えるようになります。

緩衝液は、それ自体が実験の対象になるものではなく、溶媒や希釈液として用いられることが多いものです。

 

 

トリス(Tris)の構造式

トリスの分子式はC4H11NO3で表されます。
構造式は以下の通りです。

 

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トリスは弱塩基なので、普段はほとんど電離していません。

 

トリス(Tris)と酸の反応

ここで、このトリスに酸(H+)を加えてみましょう。

すると以下の反応が起きます。

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H+がトリス(Tris)に取り込まれてしまったので、溶液全体としてはpHが変化しません。

酸に対して、緩衝能を有しているわけですね。

 

しかしながら、これだけでは
緩衝液として不十分です。

トリスは塩基を中和することが
できないからです。

 

試しに、トリスに塩基(OH-)を
加えてみましょう。

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はい!何も起こりません!

純粋なトリスはOH-と反応しませんので、
塩基を加えた分だけ、pHが塩基性アルカリ性)に傾いてしまいます。

 

これでは緩衝液として機能していませんが、
このトリスに強酸を加えることで、問題は解決します。

 

 

トリス(Tris)の共役酸の調製

ここで、トリスに強酸であるHClを加えてみましょう。

 

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pHは変化しませんが、
HClから出たH+を、トリスが
受け取った状態(共役酸)になります。

H+を受け取った状態のことを
共役酸と呼びます。*1

 ※例えば、アンモニアNH3の共役酸は
アンモニウムイオンNH4+になります。

 

 

トリス(Tris)の共役酸と塩基の反応

ではここで、さきほど調製したトリスの共役酸に塩基(OH-)を加えてみましょう。

 

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共役酸がH+を放出してOH-を中和してくれましたね!

これで塩基に対する緩衝能も獲得できました。

 

 

トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl Buffer)の調製

では最後に、トリスとその共役酸の両方が存在するように調製すれば、
トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl Buffer)
出来上がりです
!!

トリス溶液に塩酸を加えていくことで、
トリスとその共役酸の両方が共存した溶液をつくることができます。

 

このとき、共役酸はH+を放出しようとしますが、弱塩基であるトリスがH+を受け取ってしまいます。

 

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共役酸は「私ばっかり悪いから」と言って、H+を放出し、
トリスは「誰も取らないなら」と言って、H+を受けとります。

ところが、H+を受け取ったトリスは共役酸になってしまっているので、またH+を放出し、トリスがそれを受け取る、
というサイクルがグルグル繰り返されて、
平衡状態が成り立ちます。

 

 

最後に、トリス塩酸緩衝液に
①酸を加えるパターン
②塩基を加えるパターン
の反応を見てみましょう。

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これで、酸(H+)と塩基(OH-)のどちらを加えても、pHが変化しなくなりましたね!!

 

 

まとめ

今回は、トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl buffer)の原理についてご紹介しました。

いかがでしたか?

 

大学で生命科学実験を始めると、必ず登場する緩衝液。

肝になる部分は、「H+を受け取る構造と、H+を与える構造が共存している」という状態です。

 

本記事が少しでも参考になれば幸いです。

皆さんの実験が上手くいきますように。

 

 

本日もお読みいただき、ありがとうございました! \(^o^)/

 

 

 

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ビニル基・ビニリデン基の構造と覚え方について解説

こんにちは!

 

今回は、官能基であるビニル基・ビニリデン基の構造と覚え方について簡単にご紹介します。

これらの官能基を含む”ポリ塩化ビニル”や”ポリ塩化ビニリデン”は、水道のパイプやキッチンラップ等、私達の身近なところで利用されています。

 

この記事を読んでほしい人:

・ビニル基・ビニリデン基の構造が分からない人

 

 

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 ※画像はイメージです。本文の内容を反映しているものではありません 。

 

 

ビニル基とは何か?

まずは、以下の構造式をご覧ください。

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 ※塩化ビニルの構造式。MolViewで作成。

 

こちらは、塩化ビニルの構造式になります。

”塩化” ”ビニル”なので、
Cl-が”塩化”の部分で、
CH2=CH-が”ビニル基”です。*1

 

ビニル基は「利き手のあるサワガニ」と覚えましょう。

こちらが右腕の太いサワガニさんのイメージ。

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ではここで、カニと塩化ビニルのイメージを重ね合わせてみましょう。

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はい!

右腕(Cl)以外がビニル基です!!

 

 

ビニリデン基とは何か?

引き続き、以下の構造式をご覧ください。

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 ※塩化ビニリデンの構造式。MolViewで作成。

 

こちらは、塩化ビニリデンの構造式になります。

”塩化” ”ビニリデン”なので、
2つのCl-が”塩化”の部分で、
CH2=C<が”ビニリデン基”です。*2

 

ビニリデン基は「マンボウ」で覚えましょう。

こちらがマンボウさんのイメージ。

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それでは、マンボウと塩化ビニリデンのイメージを重ね合わせてみましょう。

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はい!

上下のひれ(Cl)以外がビニリデン基です!!

少し長さを調節しました。ご容赦ください。

 

 

まとめ

 

今回は、ビニル基・ビニリデン基の構造と覚え方についてご紹介しました。

いかがでしたか?

 

どの部分に置換するのか忘れてしまいそうになるビニル基・ビニリデン基ですが、
サワガニマンボウで覚えていただければバッチリだと思います!

 

本記事が少しでも参考になれば幸いです。

 

 

本日もお読みいただき、ありがとうございました! \(^o^)/

 

 

 

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危険物取扱者試験の受験資格について解説【甲・乙・丙種】

こんにちは!

 

今回は、危険物取扱者試験の受験資格について解説していきます。

 

この記事を読んでほしい人:

危険物取扱者試験を受験しようとしている

・甲種、乙種、丙種の違いが分かっていない

・自分が受験資格に該当しているか不安

 

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 ※画像はイメージです。本文の内容を反映しているものではありません 。

 

 

危険物取扱者試験とは何か?

危険物取扱者試験に合格すると、危険物取扱者になることができ、
危険物取扱者免状の交付が受けられます。

危険物取扱者試験は、次の3つの種類があり、受験資格がそれぞれ違います。

・甲種

・乙種

・丙種

 

以下、受験資格について解説します。(2020年現在)

※最新情報と差異がないかについては、必ず受験地域の都道府県等に確認してください。 

 

甲種の受験資格

甲種の受験資格は以下の表の通りです。*1

 

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甲種の受験資格について解説

こんなに文章だらけの表を見ると滅入ってしまう、という方のために簡単に解説していきます。

〔1〕大学等において化学に関する学科等を修めて卒業した者

要するに、大学の「理学部化学科」「工学部応用化学科」等、”化学”の文字が入っている学科等を卒業していればOKです。

そのほか、化学に関して十分な知識を身に付けていると判断される学科においても、受験資格が認められています。*2

例えば、次のような学科が挙げられます。

「安全工学科」

「金属材料学科」

「色染工芸学科」

「醗酵生産学科」

 

〔2〕大学等において化学に関する授業科目を15単位以上修得した者

”化学”が専門の学科を出ていなくても、化学の勉強を15単位以上してきた人はOKですよ、という内容のものです。

この15単位に該当する科目は次のようなものです。*3

アモルファス物性工学」

「回折結晶学」

「感光物性論」

「公衆衛生学」

状態方程式特論」

「水質学」

「相平衡論」

「窯業工学」

 

かなり幅広く「化学に関する授業科目」として認められていますね。

理系の方なら、履修した科目が認められる可能性は高いですね。

 

〔3〕乙種危険物取扱者免状を有する者

乙種免状を所持していて、2年以上の実務経験を有する場合、甲種の受験資格が得られます。

そのほか、次の4つの乙種免状を取得している場合は、実務経験がなくても、甲種の受験資格が得られます。

・第1類 又は 第6類

・第2類 又は 第4類

・第3類

・第5類

 

〔4〕修士・博士の学位を有する者

修士とは、大学を卒業後大学院に2年間通い、研究活動を行うと得られる学位です。

博士とは、修士の後3~4年間、もしくは大学卒業後5年間の課程を経て得られる学位です。(博士は修士よりも厳しく、もっと長く在籍することもあります)

 

 

化学に関する専攻の、修士もしくは博士の学位があれば、受験資格が得られます。

〔1〕の上位学位バージョンといったところですね。

例えば、学部は文系でも、大学院で化学が専攻であればOKだよ、ということになります。

 

乙種の受験資格

実は、危険物取扱者試験の乙種には、受験資格はありません。*4

誰でも受験でき、年齢制限もありません。

なんと小学3年生で、乙種の全種類に合格した女児がいます。*5

 

丙種の受験資格

丙種についても、同様に受験資格がありません。

 

まとめ

 

今回は、危険物取扱者試験の受験資格について解説しました。

いかがでしたか?

 

大学で化学を専門としていたなら、甲種は受験できます。

丙種・乙種なら、どんな方でも受験可能です。

ぜひ、危険物取扱者試験に挑戦してみてください。

 

本記事が少しでも参考になれば幸いです。

 

 

本日もお読みいただき、ありがとうございました! \(^o^)/

 

 

 

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赤ちゃんのアレルギーの原因について解説~皮膚の炎症がキーポイント~

こんにちは!

 

 

今回は
”赤ちゃんの食物アレルギーの原因”
について解説していきます!

 

結論から申し上げると、
①皮膚の炎症
②経皮的なアレルゲンの接触
の二点が食物アレルギーの原因と言えます。 

 

本記事が、食物アレルギーに関わる方々の参考になれば幸いです。

 

※既にアレルギーを発症している場合は、命に関わりますので、必ず医師の指示に従ってください。

 

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※画像はイメージです。本文の内容を反映しているものではありません 。

  

 

食物アレルギーの定義:そもそも食物アレルギーとは

 「食物アレルギーの診療の手引き2017」によると、以下のように定義されています。*1

定 義
食物アレルギーとは、「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象」をいう。
非免疫学的機序による食物不耐症(代謝性疾患、薬理学的な反応、毒性食物による反応など)は含まない。

 

少し専門的で分かりにくいですね。

簡単にしてみましょう。

 

「抗原特異的な免疫学的機序を介して」とは、
特定の食品に対して、体の免疫機能が作用して
と読み替えることができます。

「惹起」は「引き起こされる」という意味です。

 

すなわち、食物アレルギーとは
「特定の食品に対して、免疫機能が作用して、体に不都合な症状が出てしまうこと」
と解釈できます。

 

理解しやすくなりましたか?(^^)

 

 

食物アレルギーの原因:食物アレルギーは食べる前から始まっている!

食物アレルギーの定義は、上述の通りです。

そして
「アレルゲンとなる食物を食べると、食物アレルギーが発症する(症状が出る)」

ということは、この記事に来て下さった方なら、
当然理解されていることと思います。

 

ところが、
「そもそも、なぜアレルギー患者が、特定の食品に対してアレルギー反応を起こすようになるのか?」
という問いに答えることは、
難しいのではないでしょうか??

 

実は、食物アレルギーは、
次の2つの過程を経て発症する
ということが近年明らかになってきました。*2

 

アトピー性皮膚炎等によって
”炎症の起こっている皮膚”から、
食物アレルゲンが侵入することによって、
アレルギーを発症する準備が整う。

 

②準備が整ったアレルゲンを口から食べることで、
食物アレルギーが発症する

 

 

過去の誤った認識:昔と言ってることが違う

「いやいや、まだ腸管が未成熟な、早い時期に離乳食を食べ始めるからアレルギーになるんでしょ?」と思ったそこのあなた。

そうなんです。

実は、2000年ごろまで
専門家の間でも、
そう信じられていました。

2000年の米国小児科学会では、
乳幼児期には、アレルゲン性の高い食品を
避けることが推奨されていました。
*3

 

 

食物アレルギーのパラダイムシフト:過去の常識は覆された!

ところがどっこい。

2003年、Lackらは
それまでの常識を覆す論文を
発表しました。*4

その内容は
「ピーナッツを含む保湿オイルを塗った子供達は、ピーナッツアレルギーになる割合が約8倍に増加した。
特に、アレルギーを発症した子供の皮膚には、炎症が生じていた。」というものでした。


この発表を受けて、
食物アレルギーは皮膚から侵入することが
始まりであるとの認識が広まりました。

 

これは、専門的には”経皮感作”と呼ばれるものです。

できれば専門用語は多用したくないのですが、
これだけは、とても重要なワードなので、
是非とも覚えていただきたいです。

 

「経皮」とは
「皮膚を介して」「皮膚を通して」
という意味です。

そして「感作」とは
「アレルゲンに対して反応する準備が整う」
すなわち
「アレルギーの準備が整う」
という意味になります。

また、
ここでの「アレルギー」は
「食物アレルギー」を指します。 

 

つまり「経皮感作」とは
「皮膚を通して、食物アレルギーの準備が整う」
という意味になります。

 

2008年、Lackは世界で初めて
2重抗原曝露仮説
(dual allergen exposure hypothesis)
というものを提唱しました。*5
経皮感作の概念は、この仮説に含まれるものです。

※2020年現在では、
”仮説”というよりも
”真実”に近いだろうと思われます。

  

 

経皮感作を示唆する数々の論文:食品のアレルゲンは皮膚から侵入する

Lackらの論文を皮切りに、
経皮感作を示唆する研究が
次々と報告されています。

 

調理人・フェイスパックの経皮感作:米、小麦、果物、野菜、魚、エビ、イカ、キュウリ

例えば、2015年には、Inomataらが調理人やフェイスパックによる経皮感作を報告しています。*6

この報告では、
14名の調理人には米、小麦、果物、野菜、魚、エビ、イカなどの多様な食品が、
また1名のフェイスパックの使用者には、
含まれていたキュウリが経皮感作していました。

 

患者は、まず食品に対して接触性じんましんを発症し、
その後食物アレルギーを発症していました。

さらに、患者の86.7%にはアトピー性皮膚炎又は手の湿疹が確認されていました。

 

以上の内容より、
①様々な食品が経皮感作する
②”アトピー性皮膚炎”や”湿疹”が経皮感作のリスクになる
ということが読み取れます。

 

石鹸の経皮感作:小麦

他にも日本では、2010年頃、
加水分解小麦を含む石鹸の利用者が、
小麦の食物アレルギーを発症した事例が
相次いで報告され、社会問題となりました。*7

この事例は、石鹸中に含まれていた
小麦タンパク質に経皮感作され、
後に小麦を食べた際にアレルギーを
発症したものです。

 

化粧品の経皮感作:大豆

2015年、大豆成分含有の化粧品
利用後に大豆アレルギーを発症した報告もあります。*8

 

乳児の経皮感作:鶏卵

2016年には、
Shodaらの論文の中で
「生後1~4ヶ月の間の皮膚の炎症が、
卵アレルギーのリスクを高める」
という内容が示されています。*9

 

 

食物アレルギー診療の手引き2017

ここまで、
食物アレルギーの過去の常識が覆され、
”経皮感作”という新しい概念が誕生した
歴史についてご紹介してきました。

 

ではここで、現在の日本のガイドラインを見てみましょう。 

以下、「食物アレルギーの診療の手引き2017」からの引用です。*10

リ スク因子
 食物アレルギーの発症リスク因子として、家族歴、遺伝的素因、皮膚バリア機能、出生季節などが報告されているが、なかでも乳児期のアトピー性皮膚炎の存在が特に重要である。
 アトピー性皮膚炎のある児は健常児と比較して食物へ感作されやすい(オッズ比6.18)
食物アレルギー診療ガイドライン2016
Tsakok T, et al. J Allergy Clin Immunol 2016; 137: 1071-8.

 

「食物へ感作されやすい」とは、
簡単に言うと
「食物に対してアレルギーを起こす準備が整いやすい」
と言い換えられ、つまり
アトピー性皮膚炎があると、食物アレルギーになりやすくなる」
という意味になります。

 

したがって、やはり
「皮膚の状態を良好に保つこと」
がとても重要だと考えられるわけですね!

 

 

まとめ

以上に述べたように、
食物アレルギーに関する認識は
近年、目まぐるしく変わってきています。

 

本記事で解説したように、現在は
赤ちゃんの食物アレルギーの原因は
①皮膚の炎症
②経皮的なアレルゲンの接触
であると考えられています。

 

また、②の「経皮的なアレルゲンの接触」を減らすことは難しいです。
目に見えないような空気中のアレルゲンとの接触でも、
アレルギーのリスクになることが知られているからです。*11

 

従って、子どもの皮膚を健康に保ち
アトピー性皮膚炎等があれば早く治療する)、
①の「皮膚の炎症」をいかに早く
抑えることができるかが、
食物アレルギーの予防に
重要であると考えられます。


 

本記事が、食物アレルギーに関わる方々の参考になれば幸いです。

アレルギーで苦しむ人が、
少しでも減りますように(^^)

 

 

本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました!\(^o^)/

 

 

 

他のアレルギー関連の記事はこちら↓↓hirororo.hatenablog.jp

 

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論文紹介はこちら↓↓

hirororo.hatenablog.jp

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*1:「食物アレルギーの診療の手引き2017」検討委員会. AMED研究班による食物アレルギーの診療の手引き2017. (2017).

*2:Lack, G. Epidemiologic risks for food allergy. J. Allergy Clin. Immunol. 121, 1331–1336 (2008).

*3:American Academy of Pediatrics. Committee on Nutrition. Hypoallergenic Infant Formulas. Pediatrics 106, 346–349 (2000).

*4:Lack, G., Fox, D., Northstone, K. & Golding, J. Factors Associated with the Development of Peanut Allergy in Childhood. N. Engl. J. Med. 348, 977–85 (2003).

*5:Lack, G. Epidemiologic risks for food allergy. J. Allergy Clin. Immunol. 121, 1331–1336 (2008).

*6:Inomata, N., Nagashima, M., Hakuta, A. & Aihara, M. Food allergy preceded by contact urticaria due to the same food: Involvement of epicutaneous sensitization in food allergy. Allergol. Int. 64, 73–78 (2015).

*7:厚生労働省. 加水分解コムギ末を含有する医薬部外品・化粧品の使用上の注意事項等について. (2010). Available at:
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000uaiu-img/2r9852000000uamo.pdf

*8:Yagami, A. et al. Case of anaphylactic reaction to soy following percutaneous sensitization by soy-based ingredients in cosmetic products. J. Dermatol. 42, 917–918 (2015).

*9:Shoda, T. et al. Timing of eczema onset and risk of food allergy at 3 years of age: A hospital-based prospective birth cohort study. J. Dermatol. Sci. 84, 144–148 (2016).

*10:「食物アレルギーの診療の手引き2017」検討委員会. AMED研究班による食物アレルギーの診療の手引き2017. (2017).

*11:Brough, H. A. et al. Peanut allergy: Effect of environmental peanut exposure in children with filaggrin loss-of-function mutations. J. Allergy Clin. Immunol. 134, 867–875.e1 (2014).

赤ちゃんのピーナッツアレルギーは予防できる~健康な皮膚・アレルゲンの早期摂取~

こんにちは!

 

今回は
”どうすれば、子どものピーナッツアレルギーを予防することができるか”
というテーマでお話していきます!

 

結論から申し上げると、
①離乳食で早くから卵を食べさせること
アトピー性皮膚炎等を改善し、皮膚の状態を良好に保つこと
の二点が重要になってきます。

 

本記事が、ピーナッツアレルギーに関わる方々の参考になれば幸いです。

 

※アレルギーを発症している場合は、必ず医師の指示を仰いでください。

 

 

f:id:Hirororo:20200609221910j:plain

※画像はイメージです。本文の内容を反映しているものではありません 。

  

 

食物アレルギーは食べる前から始まっている!

「アレルゲンとなる食物を食べると、食物アレルギーが発症する(症状が出る)」
ということは、この記事に来て下さった方なら、
当然理解されていることと思います。

ところが、
「そもそも、なぜアレルギー患者が、特定の食品に対してアレルギー反応を起こすようになるのか?」
という問いに答えることができる方は、
どれほどいらっしゃるでしょうか??

 

実は、食物アレルギーは、
次の2つの過程を経て発症する
ということが近年明らかになってきました。*1

 

アトピー性皮膚炎等によって
”炎症の起こっている皮膚”から、
食物アレルゲンが侵入することによって、
アレルギーを発症する準備が整う。

 

②準備が整ったアレルゲンを口から食べることで、
食物アレルギーが発症する

 

 

昔と言ってることが違う

「いやいや、まだ腸管が未成熟な、早い時期に離乳食を食べ始めるからアレルギーになるんでしょ?」と思ったそこのあなた。

そうなんです。

実は、2000年ごろまで
専門家の間でも、
そう信じられていました。

2000年の米国小児科学会では、
乳幼児期には、アレルゲン性の高い食品を
避けることが推奨されていました。
*2

 

 

パラダイムシフト

ところがどっこい。

2003年、Lackらは
それまでの常識を覆す論文を
発表しました。*3

その内容は
「ピーナッツを含む保湿オイルを塗った子供達は、ピーナッツアレルギーになる割合が8倍に増加した。
特に、アレルギーを発症した子供の皮膚には、炎症が生じていた。」というものでした。


この発表を受けて、
食物アレルギーは皮膚から侵入することが
始まりであるとの認識が広まりました。

(専門的には”経皮感作”と呼ばれるものです)

 

さらに、
2008年のDu Toitらの論文によって、
「乳幼児期のアレルゲンの
摂取は避けるべき」
という常識も覆されました。*4

その内容は
「乳幼児期の早い段階で
ピーナッツを食べた子供の方が、
ピーナッツアレルギーの発症が少なかった」
というものでした。

(専門的には”経口免疫寛容”と呼ばれるものです)

 

その後、2008年、
アメリカの小児科学会のガイドラインで、
「乳幼児期に、アレルゲン性の高い食品を避けることは、
食物アレルギーの抑制に有効とはいえない」
という内容が記されるに至りました。*5

 

  

以上の研究成果より、
「皮膚を良好に保ち、
離乳食の早期から
ピーナッツを食べることで、
ピーナッツアレルギーを
予防できる可能性が高い」
という結論が導き出されます!

 

 

食物アレルギー診療の手引き2017

ここまで、
食物アレルギーの認識が
変わっていく歴史の流れについて
解説してきました。

 

では、現在の日本のガイドラインを見てみましょう。 

以下、「食物アレルギーの診療の手引き2017」からの引用です。*6

アトピー性皮膚炎のある児は健常児と比較して食物へ感作されやすい(オッズ比6.18)
食物アレルギー診療ガイドライン2016
Tsakok T, et al. J Allergy Clin Immunol 2016; 137: 1071-8.

 

「食物へ感作されやすい」とは、
簡単に言うと
「食物に対してアレルギーを起こす準備が整いやすい」
と言い換えられ、つまり
アトピー性皮膚炎があると、食物アレルギーになりやすくなる」
という意味になります。

 

したがって、やはり
「皮膚の状態を良好に保つこと」
がとても重要だと言えます。

 

食物アレルギーの発症予防のために妊娠中と授乳中の母親の食物除去を行うことを推奨しない。食物除去は母体と児に対して有害な栄養障害を来す恐れがある。

 

はっきりと
「食物除去は推奨しない」
ということが明記されています。

 

 

離乳食の開始時期については、
次のように説明されています。

生後5~6か月頃が適当(わが国の「授乳・離乳の支援ガイドライン2007」に準拠)であり、食物アレルギーの発症を心配して離乳食の開始を遅らせることは推奨されない。※1、2

 

ここでも

「離乳食の開始を遅らせることは推奨されない」
と述べられています。

 

 

さらに、ピーナッツアレルギーに関しては、
次のような注釈が添えられています。

※1 ピーナッツの導入を遅らせることがピーナッツアレルギーの進展のリスクを増大させる可能性が報告され、ピーナッツアレルギーの多い国では乳児期の早期(4~10か月)からピーナッツを含む食品の摂取を開始することが推奨されている。
Du Toit, et al. N Engl J Med 2015; 372: 803-13.

 

※2 ピーナッツ、鶏卵を生後3か月から摂取させることが、生後6か月以降に開始するよりも食物アレルギーの発症リスクを低減させる可能性が海外から報告された。
Perkin MR, et al. N Engl J Med 2016; 374: 1733-43.

 

 

つまり、
「ピーナッツの摂取が遅いほど、
ピーナッツアレルギーの発症リスクが高まる」
ということが示唆されています。

 

※ただし、
すでにアレルギーの発症が疑われる場合には、
当然ながらピーナッツの摂取は危険です。

その場合には、
医師の指示に従うことが必須ですので、
注意してください。

 

 

まとめ

以上に述べたように、
食物アレルギーに関する認識は
近年、目まぐるしく変わってきています。

 

全ての食物アレルギーに対して、
同様の概念で対応できるのかは
不明なところがありますが、
少なくとも、ピーナッツアレルギーに関しては、
①離乳食で早くからピーナッツを食べさせること
アトピー性皮膚炎等を改善し、皮膚の状態を良好に保つこと
の2点が、発症の予防にとても重要である、
ということが明らかになってきています。

 

 

本記事が、ピーナッツアレルギーに関わる方々の参考になれば幸いです。

アレルギーで苦しむ人が、
少しでも減りますように(^^)

 

 

本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました!\(^o^)/

 

 

 

他のアレルギー関連の記事はこちら↓↓
hirororo.hatenablog.jp
hirororo.hatenablog.jp


 

論文紹介はこちら↓↓

hirororo.hatenablog.jp

hirororo.hatenablog.jp

*1:Lack, G. Epidemiologic risks for food allergy. J. Allergy Clin. Immunol. 121, 1331–1336 (2008).

*2:American Academy of Pediatrics. Committee on Nutrition. Hypoallergenic Infant Formulas. Pediatrics 106, 346–349 (2000).

*3:Lack, G., Fox, D., Northstone, K. & Golding, J. Factors Associated with the Development of Peanut Allergy in Childhood. N. Engl. J. Med. 348, 977–85 (2003).

*4:Du Toit, G. et al. Early consumption of peanuts in infancy is associated with a low prevalence of peanut allergy. J. Allergy Clin. Immunol. 122, 984–991 (2008).

*5:Greer, F. R., Sicherer, S. H. & Burks, A. W. Effects of Early Nutritional Interventions on the Development of Atopic Disease in Infants and Children: The Role of Maternal Dietary Restriction, Breastfeeding, Timing of Introduction of Complementary Foods, and Hydrolyzed Formulas. Pediatrics 121, 183–191 (2008).

*6:「食物アレルギーの診療の手引き2017」検討委員会. AMED研究班による食物アレルギーの診療の手引き2017. (2017).

赤ちゃんの卵アレルギーは予防できる~健康な皮膚・アレルゲンの早期摂取~

こんにちは!

 

 

今回は
”どうすれば、子どもの卵アレルギーを予防することができるか”
というテーマでお話していきます!

 

結論から申し上げると、
①離乳食で早くから卵を食べさせること
アトピー性皮膚炎等を改善し、皮膚の状態を良好に保つこと
の二点が重要になってきます。

 

本記事が、卵アレルギーに関わる方々の参考になれば幸いです。

 

※アレルギーを発症している場合は、必ず医師の指示を仰いでください。

 

f:id:Hirororo:20200607175710j:plain

※画像はイメージです。本文の内容を反映しているものではありません 。

  

 

食物アレルギーは食べる前から始まっている!

「アレルゲンとなる食物を食べると、食物アレルギーが発症する(症状が出る)」
ということは、この記事に来て下さった方なら、
当然理解されていることと思います。

ところが、
「そもそも、なぜアレルギー患者が、特定の食品に対してアレルギー反応を起こすようになるのか?」
という問いに答えることができる方は、
どれほどいらっしゃるでしょうか??

 

実は、食物アレルギーは、
次の2つの過程を経て発症する
ということが近年明らかになってきました。*1

 

アトピー性皮膚炎等によって
”炎症の起こっている皮膚”から、
食物アレルゲンが侵入することによって、
アレルギーを発症する準備が整う。

 

②準備が整ったアレルゲンを口から食べることで、
食物アレルギーが発症する

 

 

昔と言ってることが違う

「いやいや、まだ腸管が未成熟な、早い時期に離乳食を食べ始めるからアレルギーになるんでしょ?」と思ったそこのあなた。

そうなんです。

実は、2000年ごろまで
専門家の間でも、
そう信じられていました。

2000年の米国小児科学会では、
乳幼児期には、アレルゲン性の高い食品を
避けることが推奨されていました。
*2

 

 

パラダイムシフト

ところがどっこい。

2003年、Lackらは
それまでの常識を覆す論文を
発表しました。*3

その内容は
「ピーナッツを含む保湿オイルを塗った子供達は、ピーナッツアレルギーになる割合が8倍に増加した。
特に、アレルギーを発症した子供の皮膚には、炎症が生じていた。」というものでした。


この発表を受けて、
食物アレルギーは皮膚から侵入することが
始まりであるとの認識が広まりました。

(専門的には”経皮感作”と呼ばれるものです)

 

さらに、
2008年のDu Toitらの論文によって、
「乳幼児期のアレルゲンの
摂取は避けるべき」
という常識も覆されました。*4

その内容は
「乳幼児期の早い段階で
ピーナッツを食べた子供の方が、
ピーナッツアレルギーの発症が少なかった」
というものでした。

(専門的には”経口免疫寛容”と呼ばれるものです)

 

その後、2008年、
アメリカの小児科学会のガイドラインで、
「乳幼児期に、アレルゲン性の高い食品を避けることは、
食物アレルギーの抑制に有効とはいえない」
という内容が記されるに至りました。*5

 

 

卵アレルギーの場合も同様

さてさて、
前置きが長くなってしまいました。^_^;

”ピーナッツ”が、この食物アレルギーの
パラダイムシフトの先駆けでしたが、
卵アレルギーの場合も同様です。

 

2016年、
Shodaらの論文の中で
「生後1~4ヶ月の間の皮膚の炎症が、
卵アレルギーのリスクを高める」
という内容が示されています。*6
(経皮感作の示唆)

また、Fisherらは2018年の論文の中で
「乳幼児期の卵の摂取
は卵アレルギーの予防に有効である」
と結論付けています。*7

(経口免疫寛容の確認)

 

したがって、
ピーナッツアレルギーの場合と同様、
「皮膚を良好に保ち、
離乳食の早期から卵を食べることで、
卵アレルギーを予防できる可能性が高い」
という結論が導き出されます!

 

 

食物アレルギー診療の手引き2017

ここまで、
食物アレルギーの認識が
変わっていく歴史の流れについて
解説してきました。

 

では、現在の日本のガイドラインを見てみましょう。 

以下、「食物アレルギーの診療の手引き2017」からの引用です。*8

食物アレルギーの発症予防のために妊娠中と授乳中の母親の食物除去を行うことを推奨しない。食物除去は母体と児に対して有害な栄養障害を来す恐れがある。

 

はっきりと
「食物除去は推奨しない」
ということが明記されています。

 

 

離乳食の開始時期については、
次のように説明されています。

生後5~6か月頃が適当(わが国の「授乳・離乳の支援ガイドライン2007」に準拠)であり、食物アレルギーの発症を心配して離乳食の開始を遅らせることは推奨されない。

 

ここでも
「離乳食の開始を遅らせることは推奨されない」
と述べられています。

 

 

さらに、鶏卵アレルギーに関しては、
次のような提言がされています。

アトピー性皮膚炎の乳児では、鶏卵の摂取が遅いほど鶏卵アレルギーを発症するリスクが高まることから、鶏卵アレルギー発症予防を目的として、医師の管理のもと、生後6か月から鶏卵の微量摂取を開始することを推奨する。

 

鶏卵の摂取を開始する前に、アトピー性皮膚炎を寛解させることが望ましい。

 

すでに鶏卵アレルギーの発症が疑われる乳児に安易に鶏卵摂取を促すことは危険であるため、「食物アレルギー診療ガイドライン2016」に準拠した対応をする。

 

ここでも
「鶏卵の摂取が遅いほど、
鶏卵アレルギーの発症リスクが高まる」
ということが明言されています。

 

また、
アトピー性皮膚炎を寛解させることが望ましい」
と記載されており、
つまりは「皮膚の状態を良好に保つこと」
が重要であるといえます。

 

ただし、
すでにアレルギーの発症が疑われる場合には、
当然ながら鶏卵の摂取は危険です。

その場合には、
医師の指示に従うことが必須ですので、
注意してください。

 

 

まとめ

以上に述べたように、
食物アレルギーに関する認識は
近年、目まぐるしく変わってきています。

 

卵アレルギーに関しても同様で、
発症を防ぐためには、
①離乳食で早くから卵を食べさせること
アトピー性皮膚炎等を改善し、皮膚の状態を良好に保つこと
の2点が非常に重要である、
ということが明らかになってきています。

 

 

本記事が、卵アレルギーに関わる方々の参考になれば幸いです。

アレルギーで苦しむ人が、
少しでも減りますように(^^)

 

 

本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました!\(^o^)/

 

 

 

他のアレルギー関連の記事はこちら↓↓

hirororo.hatenablog.jp

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論文紹介はこちら↓↓

hirororo.hatenablog.jp

hirororo.hatenablog.jp

*1:Lack, G. Epidemiologic risks for food allergy. J. Allergy Clin. Immunol. 121, 1331–1336 (2008).

*2:American Academy of Pediatrics. Committee on Nutrition. Hypoallergenic Infant Formulas. Pediatrics 106, 346–349 (2000).

*3:Lack, G., Fox, D., Northstone, K. & Golding, J. Factors Associated with the Development of Peanut Allergy in Childhood. N. Engl. J. Med. 348, 977–85 (2003).

*4:Du Toit, G. et al. Early consumption of peanuts in infancy is associated with a low prevalence of peanut allergy. J. Allergy Clin. Immunol. 122, 984–991 (2008).

*5:Greer, F. R., Sicherer, S. H. & Burks, A. W. Effects of Early Nutritional Interventions on the Development of Atopic Disease in Infants and Children: The Role of Maternal Dietary Restriction, Breastfeeding, Timing of Introduction of Complementary Foods, and Hydrolyzed Formulas. Pediatrics 121, 183–191 (2008).

*6:Shoda, T. et al. Timing of eczema onset and risk of food allergy at 3 years of age: A hospital-based prospective birth cohort study. J. Dermatol. Sci. 84, 144–148 (2016).

*7:Helen R Fisher, George Du Toit, Henry T Bahnson, Gideon Lack. The Challenges of Preventing Food Allergy: Lessons Learned From LEAP and EAT. Ann Allergy Asthma Immunol. 2018 Sep;121(3):313-319. doi: 10.1016/j.anai.2018.06.008. Epub 2018 Jun 15.

*8:「食物アレルギーの診療の手引き2017」検討委員会. AMED研究班による食物アレルギーの診療の手引き2017. (2017).