酢酸緩衝液(酢酸バッファー)の原理を解説
こんにちは!
今回は、生命科学実験で代表的な緩衝液である、酢酸緩衝液(酢酸バッファー)の仕組みをご紹介します。
リン酸緩衝液の調製には
①酢酸ナトリウムCH3COONa
②酢酸CH3COOH
の二つが登場します。
似ているようで違うこの二つの特性を理解できれば、酢酸緩衝液の原理はバッチリです!
この記事を読んでほしい人:
・生命科学実験を始めた、始める予定の人
・緩衝液の原理を知りたい人
・酢酸緩衝液(酢酸バッファー)を使用している人
※画像はイメージです。本文の内容を反映しているものではありません 。
- 緩衝液とは何か
- 酢酸ナトリウムCH3COONaの構造式と特性
- 酢酸ナトリウムCH3COONaと酸の反応
- 酢酸CH3COOHの構造式と特性
- 酢酸CH3COOHと塩基の反応
- 酢酸緩衝液(酢酸バッファー)の調製
- まとめ
緩衝液とは何か
緩衝液とは、外から酸や塩基を加えても、
pHが変化しにくい溶液のことです。
例えば、純水に強酸であるHClや強塩基であるNaOHを加えると、あっという間にpHが傾いてしまいますが、緩衝液中ではpHがほぼ一定に保たれます。
緩衝液の働きにより、目的の成分や試薬を加えても、pHを変化させずに実験が行えるようになります。
緩衝液は、それ自体が実験の対象になるものではなく、溶媒や希釈液として用いられることが多いものです。
酢酸ナトリウムCH3COONaの構造式と特性
酢酸ナトリウムの分子式はCH3COONaで表されます。
構造式は以下の通りです。
酢酸ナトリウムCH3COONaは水に溶けると、Na+が電離することでCH3COO-となります。
さらに、このCH3COO-が以下のようにH+を受け取り、OH-が生成されることで、その水溶液は塩基性を示します。
酢酸ナトリウムCH3COONaと酸の反応
ここで、このCH3COO-に酸(H+)を加えてみましょう。
すると以下の反応が起きます。
CH3COO-がH+を受け取ってしまうため、溶液全体としてはpHが変化していませんね!
酸に対して、緩衝能を有しています。
しかしながら、これだけでは緩衝液として不十分です。
CH3COO-は、塩基を中和することができないからです。
試しに、CH3COO-に塩基(OH-)を加えてみましょう。
はい!何も起こりません!
CH3COO-はOH-と反応しませんので、
塩基を加えた分だけ、pHが塩基性(アルカリ性)に傾いてしまいます。
そこで、次に酢酸CH3COOHの反応について見ていきましょう。
酢酸CH3COOHの構造式と特性
酢酸の分子式はCH3COOHで表されます。
構造式は以下の通りです。
酢酸CH3COOHは
酢酸ナトリウムCH3COONaの共役酸です。
共役酸とは、ある物質がH+を受け取った状態のことです。*1
※例えば、アンモニアNH3の共役酸はアンモニウムイオンNH4+になります。
(逆に、酢酸ナトリウムCH3COONaは、酢酸CH3COOHの共役塩基とも言うことができます。)
酢酸CH3COOHは以下のようにH+を放出し、その水溶液は弱酸性を示します。
ただし、酢酸CH3COOHは弱酸のため、多くはCH3COOHの状態で存在しています。
酢酸CH3COOHと塩基の反応
ではここで、CH3COOHに塩基(OH-)を加えてみましょう。
CH3COOHがH+を放出し、OH-を中和してくれましたね!
塩基に対して、緩衝能を有しています。
酢酸緩衝液(酢酸バッファー)の調製
では最後に、
①酢酸ナトリウムCH3COONa ⇒ CH3COO-
②酢酸CH3COOH ⇒ CH3COOH
の両方が存在するように調製すれば、酢酸緩衝液(酢酸バッファー)の出来上がりです!!
この二つが混在しているとき、共役酸であるCH3COOHはH+を放出しますが、塩基であるCH3COO-がH+を受け取ってしまいます。
共役酸であるCH3COOHは「私ばっかり悪いから」と言って、H+を放出し、
塩基であるCH3COO-は「誰も取らないなら」と言って、H+を受けとります。
ところが、H+を受け取ったCH3COO-は共役酸であるCH3COOHになってしまっているので、またH+を放出し、CH3COO-がそれを受け取る、
というサイクルがグルグル繰り返されて、
平衡状態が成り立ちます。
最後に、酢酸緩衝液(酢酸バッファー)に
①酸を加えるパターン
②塩基を加えるパターン
の反応を見てみましょう。
これで、酸(H+)と塩基(OH-)のどちらを加えても、pHが変化しなくなりましたね!!
まとめ
今回は、酢酸緩衝液(酢酸バッファー)の原理についてご紹介しました。
いかがでしたか?
大学で生命科学実験を始めると、必ず登場する緩衝液。
肝になる部分は、「H+を受け取る構造と、H+を与える構造が共存している」という状態です。
酢酸緩衝液(酢酸バッファー)は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)での分析等に用いられることが多いです。
本記事が少しでも参考になれば幸いです。
皆さんの実験が上手くいきますように。
本日もお読みいただき、ありがとうございました! \(^o^)/
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炭酸塩-重炭酸緩衝液の原理を解説
こんにちは!
今回は、生命科学実験で用いられる、炭酸塩-重炭酸緩衝液(carbonate-bicarbonate buffer:CO32- - HCO3-)の仕組みをご紹介します。
炭酸塩-重炭酸緩衝液(炭酸塩-重炭酸バッファー)の調製には
①炭酸ナトリウムNa2CO3
(Sodium carbonate)
②炭酸水素ナトリウムNaHCO3
(Sodium bicarbonate:Sodium hydrogen carbonate)
の二つが登場します。
似ているようで違うこの二つの特性を理解できれば、炭酸緩衝液の原理はバッチリです!
この記事を読んでほしい人:
・生命科学実験を始めた、始める予定の人
・緩衝液の原理を知りたい人
・炭酸塩-重炭酸緩衝液(carbonate-bicarbonate buffer)を使用している人
※画像はイメージです。本文の内容を反映しているものではありません 。
緩衝液とは何か
緩衝液とは、外から酸や塩基を加えても、
pHが変化しにくい溶液のことです。
例えば、純水に強酸であるHClや強塩基であるNaOHを加えると、あっという間にpHが傾いてしまいますが、緩衝液中ではpHがほぼ一定に保たれます。
緩衝液の働きにより、目的の成分や試薬を加えても、pHを変化させずに実験が行えるようになります。
緩衝液は、それ自体が実験の対象になるものではなく、溶媒や希釈液として用いられることが多いものです。
炭酸塩:炭酸ナトリウムNa2CO3の構造式と特性
まずは炭酸ナトリウムについて見ていきましょう。
炭酸ナトリウムの分子式はNa2CO3で表されます。
構造式は以下の通りです。
炭酸ナトリウムNa2CO3は水に溶けると、2つのNa+が電離することでCO32-となります。
さらに、このCO32-が以下のようにH+を受け取り、OH-が生成されることで、その水溶液は塩基性を示します。(酸を中和できる、塩基としての働きがある)
次に炭酸水素ナトリウムNaHCO3の反応について見ていきましょう。
重炭酸塩:炭酸水素ナトリウムNaHCO3の構造式と特性
炭酸水素ナトリウムの分子式はNaHCO3で表されます。
構造式は以下の通りです。
炭酸水素ナトリウムNaHCO3は
炭酸ナトリウムNa2CO3の共役酸です。
共役酸とは、ある物質がH+を受け取った状態のことです。*1
※例えば、アンモニアNH3の共役酸はアンモニウムイオンNH4+になります。
炭酸水素ナトリウムNaHCO3は水に溶けると、Na+が電離することでHCO3-となります。
①HCO3-は、中性付近の水溶液中では、以下のようにH+受け取り、その水溶液は塩基性を示します。
②ただし、塩基性条件下では、下記2番目の反応式のようにH+を放出し、塩基に対して緩衝作用を示します。(塩基を中和できる、酸としての働きがある)
炭酸塩-重炭酸緩衝液の調製
では最後に、
①炭酸ナトリウムNa2CO3 ⇒ CO32-
(Sodium carbonate)
②炭酸水素ナトリウムNaHCO3 ⇒ HCO3-
(Sodium bicarbonate:Sodium hydrogen carbonate)
の両方が存在するように調製すれば、炭酸塩-重炭酸緩衝液(carbonate-bicarbonate buffer)の出来上がりです!!
この二つが混在しているとき、共役酸であるHCO3-はH+を放出しますが、塩基であるCO32-がH+を受け取ってしまいます。
共役酸であるHCO3-は「私ばっかり悪いから」と言って、H+を放出し、
塩基であるCO32-は「誰も取らないなら」と言って、H+を受けとります。
ところが、H+を受け取ったCO32-は共役酸であるHCO3-になってしまっているので、またH+を放出し、CO32-がそれを受け取る、
というサイクルがグルグル繰り返されて、
平衡状態が成り立ちます。
ポイントは、この溶液中ではH+を受け取る構造と、H+を与える構造が共存しているというところです。
最後に、炭酸塩-重炭酸緩衝液(carbonate-bicarbonate buffer)に
①酸を加えるパターン
②塩基を加えるパターン
の反応を見てみましょう。
これで、酸(H+)と塩基(OH-)のどちらを加えても、pHが変化しなくなりましたね!!
まとめ
今回は、炭酸塩-重炭酸緩衝液(carbonate-bicarbonate buffer)の原理についてご紹介しました。
いかがでしたか?
大学で生命科学実験を始めると、必ず登場する緩衝液。
肝になる部分は、「H+を受け取る構造と、H+を与える構造が共存している」という状態です。
補足:今回ご紹介した緩衝液は、ヒトの血液中のpHを7.4付近に保つ役割を担っている重炭酸緩衝系とは少し異なります。
重炭酸緩衝系は炭酸-重炭酸(carbonic acid-bicarbonate:CO2 - HCO3-)の緩衝作用になります。
本記事が少しでも参考になれば幸いです。
皆さんの実験が上手くいきますように。
本日もお読みいただき、ありがとうございました! \(^o^)/
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クエン酸緩衝液(クエン酸バッファー)の原理を解説
こんにちは!
今回は、生命科学実験で代表的な緩衝液である、クエン酸緩衝液(クエン酸バッファー)の仕組みをご紹介します。
クエン酸緩衝液の調製には
①クエン酸C6H8O7
②クエン酸三ナトリウムC6H5Na3O7
の二つを用いますが、
緩衝作用のメイン分子は
③C6H7O7-
④C6H6O72-
の二つになります。
③C6H7O7-と④C6H6O72-の特性を理解できれば、クエン酸緩衝液の原理はバッチリです!
この記事を読んでほしい人:
・生命科学実験を始めた、始める予定の人
・緩衝液の原理を知りたい人
※画像はイメージです。本文の内容を反映しているものではありません 。
- 緩衝液とは何か
- クエン酸C6H8O7の構造式と特性
- クエン酸三ナトリウムC6H5Na3O7の構造式と特性
- クエン酸緩衝液(クエン酸バッファー)の調製
- クエン酸緩衝液(クエン酸バッファー)と酸の反応
- クエン酸緩衝液(クエン酸バッファー)と塩基の反応
- まとめ
緩衝液とは何か
緩衝液とは、外から酸や塩基を加えても、
pHが変化しにくい溶液のことです。
例えば、純水に強酸であるHClや強塩基であるNaOHを加えると、あっという間にpHが傾いてしまいますが、緩衝液中ではpHがほぼ一定に保たれます。
緩衝液の働きにより、目的の成分や試薬を加えても、pHを変化させずに実験が行えるようになります。
緩衝液は、それ自体が実験の対象になるものではなく、溶媒や希釈液として用いられることが多いものです。
クエン酸C6H8O7の構造式と特性
まずはクエン酸について見ていきましょう。
クエン酸の分子式はC6H8O7で表されます。
構造式は以下の通りです。
3つのカルボキシル基(-COOH)を持つクエン酸C6H8O7は、水に溶けると以下のようにH+を放出し、その水溶液は弱酸性を示します。
クエン酸C6H8O7は
H+を与える構造(酸としての性質)があるため、
塩基(OH-)を中和することはできますが、
H+を受け取る構造(塩基としての性質)がないため、
酸(H+)を中和することはできません。
クエン酸三ナトリウムC6H5Na3O7の構造式と特性
次にクエン酸三ナトリウムについて見ていきましょう。
クエン酸三ナトリウムの分子式はC6H5Na3O7で表されます。
構造式は以下の通りです。
C6H5Na3O7は水に溶けると、3つのNa+が電離することでC6H5O3-となります。
さらに、このC6H5O3-が以下のように3つのH+を受け取り、3つのOH-が生成されることで、その水溶液は強塩基性を示します。
先ほどとは反対に、C6H5O3-は
H+を受け取る構造(塩基としての性質)があるため、
酸(H+)を中和することができますが、
H+を与える構造(酸としての性質)はないため、
塩基(OH-)を中和することはできません。
では、この二つの性質を組み合わせて、酸も塩基もどちらも中和できる溶液を作っていきましょう!!
クエン酸緩衝液(クエン酸バッファー)の調製
クエン酸緩衝液を調製してみましょう。
①クエン酸C6H8O7
②クエン酸三ナトリウムC6H5Na3O7 ⇒ C6H5O3-
の両方を混ぜ合わせれば、クエン酸緩衝液(クエン酸バッファー)が出来上がります。
この二つを混合させたとき、弱酸であるC6H8O7がH+を放出し、強塩基であるC6H5O3-はH+を受け取ります。
その結果、③C6H7O7-と④C6H6O72-の2つが生成されます。
C6H8O7 ⇒ C6H7O7-
C6H5O3- ⇒ C6H6O72-
少しややこしくなってきましたが、C6H7O7-とC6H6O72-に着目してください。
(上図の一番下の二つの構造式)
このとき、二つの構造式を見て気が付くことはありますか?
そうです。
この二つの混合溶液中ではH+を受け取る構造と、H+を与える構造が共存しているのです。
では最後に、クエン酸緩衝液と酸・塩基との反応を見ていきましょう。
補足:クエン酸にはカルボキシル基が3つあり、それぞれランダムに反応します。そのため、色んな組み合わせの分子が出来上がります。ただし、今回示したクエン酸の構造式の右側と左側のカルボキシル基は、ひっくり返せば同じものなので、見かけ上は、これらが反応することが多いように見えます。
クエン酸緩衝液(クエン酸バッファー)と酸の反応
ではここで、この溶液に酸(H+)を加えてみましょう。
C6H6O72-がH+を受け取ってしまうため、溶液全体としてはpHが変化していませんね!
酸に対して、緩衝能を有しています。
クエン酸緩衝液(クエン酸バッファー)と塩基の反応
次に、この溶液に塩基(OH-)を加えてみましょう。
すると以下の反応が起きます。
C6H7O7-がH+を放出し、OH-を中和してくれましたね!
塩基に対して、緩衝能を有しています。
これで、酸(H+)と塩基(OH-)のどちらを加えても、pHが変化しなくなりましたね!!
まとめ
今回は、リン酸緩衝液(リン酸バッファー)の原理についてご紹介しました。
いかがでしたか?
大学で生命科学実験を始めると、必ず登場する緩衝液。
肝になる部分は、「H+を受け取る構造と、H+を与える構造が共存している」という状態です。
本記事が少しでも参考になれば幸いです。
皆さんの実験が上手くいきますように。
本日もお読みいただき、ありがとうございました! \(^o^)/
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リン酸緩衝液(リン酸バッファー)の原理を解説
こんにちは!
今回は、生命科学実験で代表的な緩衝液である、リン酸緩衝液(リン酸バッファー)の仕組みをご紹介します。
リン酸緩衝液の調製には
①リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4
②リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4
の二つが登場します。
似ているようで違うこの二つの特性を理解できれば、リン酸緩衝液の原理はバッチリです!
この記事を読んでほしい人:
・緩衝液の原理を知りたい人
・リン酸緩衝液(リン酸バッファー)を使用している人
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を使用している人
※画像はイメージです。本文の内容を反映しているものではありません 。
- 緩衝液とは何か
- リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4の構造式と特性
- リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4と酸の反応
- リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4の構造式と特性
- リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4と塩基の反応
- リン酸緩衝液(リン酸バッファー)の調製
- まとめ
緩衝液とは何か
緩衝液とは、外から酸や塩基を加えても、
pHが変化しにくい溶液のことです。
例えば、純水に強酸であるHClや強塩基であるNaOHを加えると、あっという間にpHが傾いてしまいますが、緩衝液中ではpHがほぼ一定に保たれます。
緩衝液の働きにより、目的の成分や試薬を加えても、pHを変化させずに実験が行えるようになります。
緩衝液は、それ自体が実験の対象になるものではなく、溶媒や希釈液として用いられることが多いものです。
リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4の構造式と特性
リン酸水素二ナトリウムの分子式はNa2HPO4で表されます。
構造式は以下の通りです。
リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4は水に溶けると、Na+が電離することでHPO42-となります。
さらに、このHPO42-が以下のようにH+を受け取り、OH-が生成されることで、その水溶液は弱塩基性を示します。
ただし、リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4は弱塩基のため、多くはHPO42-の状態で存在しています。
リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4と酸の反応
ここで、このHPO42-に酸(H+)を加えてみましょう。
すると以下の反応が起きます。
HPO42-がH+を受け取ってしまうため、溶液全体としてはpHが変化していませんね!
酸に対して、緩衝能を有しています。
しかしながら、これだけでは緩衝液として不十分です。
HPO42-は、塩基をほとんど中和することができないからです。
試しに、HPO42-に塩基(OH-)を加えてみましょう。
HPO42-はOH-を僅かに中和することができますが、
この反応は左に傾いているため、ほとんど緩衝作用を示しません。
※ただし、OH-を大量に添加した場合は平衡は右に寄っていきます。
そこで、次にリン酸二水素ナトリウムNaH2PO4の反応について見ていきましょう。
リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4の構造式と特性
リン酸二水素ナトリウムの分子式はNaH2PO4で表されます。
構造式は以下の通りです。
リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4は
リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4の共役酸です。
共役酸とは、ある物質がH+を受け取った状態のことです。*1
※例えば、アンモニアNH3の共役酸はアンモニウムイオンNH4+になります。
リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4は水に溶けると、Na+が電離することでH2PO4-となります。
H2PO4-は以下のようにH+を放出し、その水溶液は弱酸性を示します。
ただし、リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4は弱酸のため、多くはH2PO4-の状態で存在しています。
リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4と塩基の反応
ではここで、H2PO4-に塩基(OH-)を加えてみましょう。
H2PO4-がH+を放出し、OH-を中和してくれましたね!
塩基に対して、緩衝能を有しています。
ちなみ、H2PO4-にH+を加えた場合は、以下の反応が起こりますが、平衡が左に傾いているので、ほとんど緩衝作用を示しません。
※H+を大量に添加した場合は平衡は右に寄っていきます。
リン酸緩衝液(リン酸バッファー)の調製
では最後に、
①リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4 ⇒ HPO42-
②リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4 ⇒ H2PO4-
の両方が存在するように調製すれば、リン酸緩衝液(リン酸バッファー)の出来上がりです!!
この二つが混在しているとき、共役酸であるH2PO4-はH+を放出しますが、弱塩基であるHPO42-がH+を受け取ってしまいます。
共役酸であるH2PO4-は「私ばっかり悪いから」と言って、H+を放出し、
弱塩基であるHPO42-は「誰も取らないなら」と言って、H+を受けとります。
ところが、H+を受け取ったHPO42-は共役酸であるH2PO4-になってしまっているので、またH+を放出し、HPO42-がそれを受け取る、
というサイクルがグルグル繰り返されて、
平衡状態が成り立ちます。
最後に、リン酸緩衝液(リン酸バッファー)に
①酸を加えるパターン
②塩基を加えるパターン
の反応を見てみましょう。
これで、酸(H+)と塩基(OH-)のどちらを加えても、pHが変化しなくなりましたね!!
まとめ
今回は、リン酸緩衝液(リン酸バッファー)の原理についてご紹介しました。
いかがでしたか?
大学で生命科学実験を始めると、必ず登場する緩衝液。
肝になる部分は、「H+を受け取る構造と、H+を与える構造が共存している」という状態です。
なお、実際の生化学実験においては、0.9w/v%生理食塩水に調製することで、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline:PBS)として用いることが多いです。
塩分が入っているだけなので、緩衝液の原理としては、今回ご紹介した内容と同じになります。
本記事が少しでも参考になれば幸いです。
皆さんの実験が上手くいきますように。
本日もお読みいただき、ありがとうございました! \(^o^)/
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トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl buffer)の原理を解説
こんにちは!
今回は、生命科学実験で代表的な緩衝液である、トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl buffer)の仕組みをご紹介します。
通常、「トリスヒドロキシメチルアミノメタン(tris(hydroxymethyl)aminomethane)」の頭を取ってトリス(Tris)と呼ばれることが多いです。
また、緩衝液はバッファー(Buffer)とも言います。
この記事を読んでほしい人:
・生命科学実験を始めた、始める予定の人
・緩衝液を調製しているが、原理が分からない人
・トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl buffer)を使用している人
※画像はイメージです。本文の内容を反映しているものではありません 。
- 緩衝液とは何か
- トリス(Tris)の構造式
- トリス(Tris)と酸の反応
- トリス(Tris)の共役酸の調製
- トリス(Tris)の共役酸と塩基の反応
- トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl Buffer)の調製
- まとめ
緩衝液とは何か
緩衝液とは、外から酸や塩基を加えても、
pHが変化しにくい溶液のことです。
例えば、純水に強酸であるHClや強塩基であるNaOHを加えると、あっという間にpHが傾いてしまいますが、緩衝液中ではpHがほぼ一定に保たれます。
緩衝液の働きにより、目的の成分や試薬を加えても、pHを変化させずに実験が行えるようになります。
緩衝液は、それ自体が実験の対象になるものではなく、溶媒や希釈液として用いられることが多いものです。
トリス(Tris)の構造式
トリスの分子式はC4H11NO3で表されます。
構造式は以下の通りです。
トリスは弱塩基なので、普段はほとんど電離していません。
トリス(Tris)と酸の反応
ここで、このトリスに酸(H+)を加えてみましょう。
すると以下の反応が起きます。
H+がトリス(Tris)に取り込まれてしまったので、溶液全体としてはpHが変化しません。
酸に対して、緩衝能を有しているわけですね。
しかしながら、これだけでは
緩衝液として不十分です。
トリスは塩基を中和することが
できないからです。
試しに、トリスに塩基(OH-)を
加えてみましょう。
はい!何も起こりません!
純粋なトリスはOH-と反応しませんので、
塩基を加えた分だけ、pHが塩基性(アルカリ性)に傾いてしまいます。
これでは緩衝液として機能していませんが、
このトリスに強酸を加えることで、問題は解決します。
トリス(Tris)の共役酸の調製
ここで、トリスに強酸であるHClを加えてみましょう。
pHは変化しませんが、
HClから出たH+を、トリスが
受け取った状態(共役酸)になります。
H+を受け取った状態のことを
共役酸と呼びます。*1
※例えば、アンモニアNH3の共役酸は
アンモニウムイオンNH4+になります。
トリス(Tris)の共役酸と塩基の反応
ではここで、さきほど調製したトリスの共役酸に塩基(OH-)を加えてみましょう。
共役酸がH+を放出してOH-を中和してくれましたね!
これで塩基に対する緩衝能も獲得できました。
トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl Buffer)の調製
では最後に、トリスとその共役酸の両方が存在するように調製すれば、
トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl Buffer)の
出来上がりです!!
トリス溶液に塩酸を加えていくことで、
トリスとその共役酸の両方が共存した溶液をつくることができます。
このとき、共役酸はH+を放出しようとしますが、弱塩基であるトリスがH+を受け取ってしまいます。
共役酸は「私ばっかり悪いから」と言って、H+を放出し、
トリスは「誰も取らないなら」と言って、H+を受けとります。
ところが、H+を受け取ったトリスは共役酸になってしまっているので、またH+を放出し、トリスがそれを受け取る、
というサイクルがグルグル繰り返されて、
平衡状態が成り立ちます。
最後に、トリス塩酸緩衝液に
①酸を加えるパターン
②塩基を加えるパターン
の反応を見てみましょう。
これで、酸(H+)と塩基(OH-)のどちらを加えても、pHが変化しなくなりましたね!!
まとめ
今回は、トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl buffer)の原理についてご紹介しました。
いかがでしたか?
大学で生命科学実験を始めると、必ず登場する緩衝液。
肝になる部分は、「H+を受け取る構造と、H+を与える構造が共存している」という状態です。
本記事が少しでも参考になれば幸いです。
皆さんの実験が上手くいきますように。
本日もお読みいただき、ありがとうございました! \(^o^)/
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ビニル基・ビニリデン基の構造と覚え方について解説
こんにちは!
今回は、官能基であるビニル基・ビニリデン基の構造と覚え方について簡単にご紹介します。
これらの官能基を含む”ポリ塩化ビニル”や”ポリ塩化ビニリデン”は、水道のパイプやキッチンラップ等、私達の身近なところで利用されています。
この記事を読んでほしい人:
・ビニル基・ビニリデン基の構造が分からない人
※画像はイメージです。本文の内容を反映しているものではありません 。
ビニル基とは何か?
まずは、以下の構造式をご覧ください。
※塩化ビニルの構造式。MolViewで作成。
こちらは、塩化ビニルの構造式になります。
”塩化” ”ビニル”なので、
Cl-が”塩化”の部分で、
CH2=CH-が”ビニル基”です。*1
ビニル基は「利き手のあるサワガニ」と覚えましょう。
こちらが右腕の太いサワガニさんのイメージ。
ではここで、カニと塩化ビニルのイメージを重ね合わせてみましょう。
はい!
右腕(Cl)以外がビニル基です!!
ビニリデン基とは何か?
引き続き、以下の構造式をご覧ください。
※塩化ビニリデンの構造式。MolViewで作成。
こちらは、塩化ビニリデンの構造式になります。
”塩化” ”ビニリデン”なので、
2つのCl-が”塩化”の部分で、
CH2=C<が”ビニリデン基”です。*2
ビニリデン基は「マンボウ」で覚えましょう。
こちらがマンボウさんのイメージ。
それでは、マンボウと塩化ビニリデンのイメージを重ね合わせてみましょう。
はい!
上下のひれ(Cl)以外がビニリデン基です!!
少し長さを調節しました。ご容赦ください。
まとめ
今回は、ビニル基・ビニリデン基の構造と覚え方についてご紹介しました。
いかがでしたか?
どの部分に置換するのか忘れてしまいそうになるビニル基・ビニリデン基ですが、
サワガニとマンボウで覚えていただければバッチリだと思います!
本記事が少しでも参考になれば幸いです。
本日もお読みいただき、ありがとうございました! \(^o^)/
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危険物取扱者試験の受験資格について解説【甲・乙・丙種】
こんにちは!
今回は、危険物取扱者試験の受験資格について解説していきます。
この記事を読んでほしい人:
・危険物取扱者試験を受験しようとしている
・甲種、乙種、丙種の違いが分かっていない
・自分が受験資格に該当しているか不安
※画像はイメージです。本文の内容を反映しているものではありません 。
危険物取扱者試験とは何か?
危険物取扱者試験に合格すると、危険物取扱者になることができ、
危険物取扱者免状の交付が受けられます。
危険物取扱者試験は、次の3つの種類があり、受験資格がそれぞれ違います。
・甲種
・乙種
・丙種
以下、受験資格について解説します。(2020年現在)
※最新情報と差異がないかについては、必ず受験地域の都道府県等に確認してください。
甲種の受験資格
甲種の受験資格は以下の表の通りです。*1
甲種の受験資格について解説
こんなに文章だらけの表を見ると滅入ってしまう、という方のために簡単に解説していきます。
〔1〕大学等において化学に関する学科等を修めて卒業した者
要するに、大学の「理学部化学科」「工学部応用化学科」等、”化学”の文字が入っている学科等を卒業していればOKです。
そのほか、化学に関して十分な知識を身に付けていると判断される学科においても、受験資格が認められています。*2
例えば、次のような学科が挙げられます。
「安全工学科」
「金属材料学科」
「色染工芸学科」
「醗酵生産学科」
〔2〕大学等において化学に関する授業科目を15単位以上修得した者
”化学”が専門の学科を出ていなくても、化学の勉強を15単位以上してきた人はOKですよ、という内容のものです。
この15単位に該当する科目は次のようなものです。*3
「アモルファス物性工学」
「回折結晶学」
「感光物性論」
「公衆衛生学」
「状態方程式特論」
「水質学」
「相平衡論」
「窯業工学」
かなり幅広く「化学に関する授業科目」として認められていますね。
理系の方なら、履修した科目が認められる可能性は高いですね。
〔3〕乙種危険物取扱者免状を有する者
乙種免状を所持していて、2年以上の実務経験を有する場合、甲種の受験資格が得られます。
そのほか、次の4つの乙種免状を取得している場合は、実務経験がなくても、甲種の受験資格が得られます。
・第1類 又は 第6類
・第2類 又は 第4類
・第3類
・第5類
〔4〕修士・博士の学位を有する者
修士とは、大学を卒業後大学院に2年間通い、研究活動を行うと得られる学位です。
博士とは、修士の後3~4年間、もしくは大学卒業後5年間の課程を経て得られる学位です。(博士は修士よりも厳しく、もっと長く在籍することもあります)
化学に関する専攻の、修士もしくは博士の学位があれば、受験資格が得られます。
〔1〕の上位学位バージョンといったところですね。
例えば、学部は文系でも、大学院で化学が専攻であればOKだよ、ということになります。
乙種の受験資格
実は、危険物取扱者試験の乙種には、受験資格はありません。*4
誰でも受験でき、年齢制限もありません。
なんと小学3年生で、乙種の全種類に合格した女児がいます。*5
丙種の受験資格
丙種についても、同様に受験資格がありません。
まとめ
今回は、危険物取扱者試験の受験資格について解説しました。
いかがでしたか?
大学で化学を専門としていたなら、甲種は受験できます。
丙種・乙種なら、どんな方でも受験可能です。
ぜひ、危険物取扱者試験に挑戦してみてください。
本記事が少しでも参考になれば幸いです。
本日もお読みいただき、ありがとうございました! \(^o^)/
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