「おまもり」(重松清『青い鳥』より) ~”たいせつ”な思いは伝わる~

こんにちは!

 

本日ご紹介する書籍はこちら、「青い鳥」の中の「おまもり」です↓↓

(ネタバレありです)

ジャジャン♫

青い鳥 (新潮文庫)

青い鳥 (新潮文庫)

  • 作者:清, 重松
  • 発売日: 2010/06/29
  • メディア: 文庫
 

 

タイトル:おまもり

著者:重松清

出版社:新潮文庫

その他情報:平成22年7月1日発行の「青い鳥」に収載。

 

 

作品の概要

今回は、この「青い鳥」の中の3つ目、「おまもり」をご紹介します。

こちらの「青い鳥」は重松清の小説で、8つの短編が連作になっています。

重松清さんは2001年に「ビタミンF」で直木賞を受賞されている作家さんです。

 

短編の二つ目「ひむりーる独唱」についてはこちらの記事でご紹介しています。↓↓;
hirororo.hatenablog.jp

hirororo.hatenablog.jp

 

 

重松清さんの作品は、平易な文章で執筆されていますので、
普段読書をしない方でも簡単に読み進めることができますよ(^^)

小学校の国語の教科書にもこの方の作品が載っていますね。

 

「おまもり」は、中学2年生の秋の物語です。

交通事故にあった、「加害者」と「被害者」の両方を描いています。

 

きっと”たいせつ”な思いは伝わる

 

読み終わると、ほっこり涙する、そんな物語です(^^)

 

 

吃音症の村内先生

さて、本書の8作は全て主人公が異なりますが、
共通する村内先生という人物が登場します。

一話完結型のドラマを観ているような感じですね。

 

この村内先生には、話すときに、どもってしまう特徴があります。

吃音症と呼ばれるものです。*1

発声時に第1音が円滑に出なかったり、ある音を繰り返したり伸ばしたり、無音が続いたりする言語障害

 

清水ちゃんと自転車事故

この物語の主人公、中学2年生の須藤杏子には、
同じ部活に所属している清水ちゃんという友達がいます。

その清水ちゃんが、自転車同士の接触事故で足を骨折し、
入院しているところから物語は始まります。

 

清水ちゃんは、自転車事故の”犯人”に当て逃げされてしまいました。

部活の試合に出られないことや、
後遺症が残る不安などから、犯人への怒りでいっぱいです。

 

”犯人”への怒りを耳にする度、
杏子は、胸に針が刺さるような感覚に見舞われます。

 

 

父と交通事故

杏子の父は12年前に自分の運転する自動車で交通事故を起こしました。

歩行者に当たり、被害者の女性は亡くなってしまいます。

 

それ以降、毎年、命日のある10月に墓参りに行くようになります。

父は、これまで11年間、ずっと一人でこの季節に墓参りをして、
自宅を訪問していました。

でも、11年間ずっと、被害者の家族には受け入れてもらえず、
毎年、手土産をそのまま持ち帰っていました。

 

事故があってから、父は、どこかに出かける度に、
交通安全の「おまもり」を杏子に買ってくるようになりました。

それは”何かのついで”はなく、
願いのこもった「おまもり」です。

 

 

 

村内先生と張り紙 

事故で”犯人”を憎んでいる清水ちゃんを見て、
杏子は”犯人”に名乗り出てくるように、事故現場の電柱に張り紙を貼ります。

 

杏子は、清水ちゃんに同情する以上に、
”犯人”のことを心配していました。

”犯人”の不運に同情していました。

 

だから、名乗り出ないと、きっと後悔してしまうから、
出てきて謝ってほしいということを張り紙に書きます。

杏子は、”犯人”にずっと”犯人”として生きてほしくなかったのです。

父の苦しさを知っているからです。

そこには、杏子の優しさが、溢れ出ていました。

 

 

そのとき、村内先生と遭遇します。

杏子は父の事情については話しませんでしたが、日曜日に部活の試合があること、
初めて試合に出られるのに、それよりも”たいせつ”な用があることを伝えます。

 

村内先生は、部活の先生に、杏子の”たいせつ”な思いを伝えます。

「たいせつな用事があるって生徒が言っているときには、そっちを優先させてやってください、ってお願いされたの」 

「……村内先生にですか?」

「そう。ゆうべ電話がかかってきてね」

 電話で――。

 あんなに言葉がつっかえたらキツいんじゃないかなあ、と思ったら、前田先生はそれを見抜いて、「何度も聞き返しちゃったけどね」とまた笑った。

「ですよね……」

「でも、伝わるのよ、村内先生が言いたいことは、ちゃんと伝わる」

 

村内先生は、杏子の両親にも電話します。

「お父さんがね、電話を代わって、自分でぜんぶ説明してた。家族を連れて行くつもりはない、っていうのもね」

 でも村内先生はお父さんに言ったらしい。「たいせつ」なことがあるというのは、とてもたいせつなことなんだから、どうか娘さんの願いをかなえてあげてください。

(中略)

「でもさ、あのさ、……あの先生ってさ、ほら、言葉つっかえてたでしょ、どもるっていうか、めちゃくちゃじゃなかった?」

 お母さんは笑ってうなづいて、「何度も聞き返しちゃったけど、言いたいことは、すごくよくわかったよ――」前田先生と同じことを、同じ笑顔で、言ったのだ。

 

言葉がつっかえても、本当に伝えたいことを一生懸命に話す村内先生の言葉は、
2人の心に響きます。

村内先生からは、本当に”たいせつ”に思っていることは、
無下にしてはいけないという信念が伝わってきます。

 

 

皆さんは、”たいせつ”な思いを飲み込んではいませんか?

 

 

おまもり

日曜日、杏子は、初めてのレギュラーで出れるはずだった部活の試合を断り、
家族とともに父の遺族のもとへ向かいました。

家族みんなでお墓参りをして、
遺族の家には、父一人で向かうことにします。

 

父を待っている間、清水ちゃんから連絡があり電話をします。

なんと、自転車事故の”犯人”が名乗り出たといいます。

大きな事故を起こしたとは気づかなかったといい、
一心に謝る”犯人”と清水ちゃんは和解します。

それから、清水ちゃんは”犯人のオジサン”と呼ぶようになります。

清水ちゃんの憎しみは、少し和らいだようでした。

 

 

清水ちゃんの嬉しい報告を受けた杏子は、
村内先生に電話をかけようとします。

そのとき、父の乗るタクシーが戻ってきます。 

父の手には、出かけたときと同じデパートの袋が提げられていました。

電話を耳から浮かせかけた、そのとき――お父さんは袋を胸に抱きかかえて、袋の中に右手を入れた。袋の形が変わる。四角い羊羹の箱ではなく、もっとモコモコした、まるい形のものが、たくさん。

袋から出した右手に、オレンジ色をしたまるいものが載っていた。

 柿だ。ヘタの上に枝の切れ端をつけた、大ぶりの柿だった。

 お父さんは照れくさそうに、ちょっと困ったように、でも、すごくうれしそうに口を動かした。

 も、ら、っ、ちゃっ、た、よ――。

 つっかえてる。お父さんの声は、聞こえなくても、聞こえる。

 電話がつながる。「はい、もしもし」と村内先生の声が耳に流れ込む。

 先生、あの、須藤です。あの、あの、あのですね、えーと、あの……。

  伝えたいことは、たくさんある。なにからしゃべろう、なにから先生に教えてあげよう。なにから先生に聞いてもらおう。

 おまもりを握りしめる。ぎゅうっと強く握って、神様の存在を少しだけ信じた。

 

タクシーで帰ってきて、行きと同じ袋を持っている父を見て、
杏子は、今年も手土産は受けとってもらえなかったと思いました。

しかし、父は、袋から手土産ではなく、嬉しそうに柿を取り出しました。

事故から12年目にして、
ようやく被害者の遺族に受け入れられたことがわかります。

遺族の方とどのようなやり取りがされたのかは語られませんが、
きっとお互いの”たいせつ”な思いを伝え合うことができたのではないでしょうか。

 

 

まとめ

本日は重松清氏の「青い鳥」より、
「おまもり」をご紹介しました!

いかがでしたか??

 

誰が悪いわけでもない、不運な現実の中で我々は生きています。

けれど、村内先生や杏子のように、”たいせつ”な思いを伝えていくことで、
そんな理不尽な世界と向き合っていくことができるかもしれませんね(^^)

 

自転車事故の加害者が名乗り出たのは、たまたまではなく、
名乗り出てほしいという思いを、杏子が張り紙にして伝えたからでした。

 

なぜ12年目にして、父が遺族に受け入れられたのか、
詳細は語られることはありません。

ですが、今年は杏子が行動を起こしました。

初めて被害者のお墓参りをして、
事故から一度も心の底から笑ったことのない父を、
もう許してやってほしいと、墓石の前で祈りました。

今年は、杏子の”たいせつ”な思いが、神様に届いたのかもしれませんね。

 

 

さて、みなさんの”たいせつ”はなんでしょうか?

それぞれの”たいせつ”のため、
村内先生や杏子のように、行動に移していきたいですね(^^)

 

重松清氏の作品は、いつまでも私の”たいせつ”な「おまもり」です。

  

 

 

本日もお読みいただきありがとうございました!\(^o^)/

 

 

 

短編の1つ目「ハンカチ」はこちら↓↓  

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