化学物質はなぜ嫌われるのか?(佐藤健太郎)(2/2)~LD50・DDT編~

 こんにちは!

 

前回の続きで本日もこちらをご紹介します!!

 

 

 

「化学物質はなぜ嫌われるのか ?「化学物質」のニュースを読み解く (知りたい!サイエンス 33)」 佐藤健太郎著 2008年発行

 

前回の記事はこちら↓

 

hirororo.hatenablog.jp

 

 

 

 

(余談)LD50:半数致死量の話

いきなり余談ですが、ここでLD50について触れておきたいと思います。(本書でも、ところどころこの概念が登場します)

 

さて、すべての物質は摂取しすぎたら体に害をもたらします。

害をもたらす程度の指標にLD50があります。これは、半数致死量といい、一回の投与で全体の50%の個体が死亡する量を示します。

分かりやすく言うと、100匹のネズミにLD50の量を食べさせると50匹は死にますよ、という量です。

 

実は、普段から安全だと思って食べているものにもLD50はあります。

 

 

 

 

例えば、砂糖(Sucrose)のラットにおけるLD50(経口投与)はおよそ29700mg/kgなので、*1*2

ヒト60kgで換算すると、1782000mg≒1.8kg

ということで、一度に1.8kgの砂糖をドカ食いすると死に至ります!

と、まあ、現実的に砂糖を一度に1.8kg食べる人はいないと思いますので、砂糖は急性毒性に関しては、安全性が高いと言えるわけですね。

(ただし、日常的な過剰摂取は血糖値の上昇につながりますし、糖尿病のリスクが上がるのでよくありません)

 

 

ここで、食塩(Sodium Chloride)のラットにおけるLD50(経口投与)はおよそ3000mg/kgなので、*3*4

 ヒト60kgで換算すると、180000mg≒180mg

ということで、砂糖の10倍は危険だと言えそうです。

しかしながら、現実的にこの量を摂取しようと思ったら気持ち悪くて嘔吐しそうなので、まあ中毒になる人はいないでしょう。

(塩分の取り過ぎは高血圧の原因になり得るのでやめましょう)

 

 

水(water)についても調べてみましたが、どうもNIH(National Institutes of Health:アメリ国立衛生研究所)には経口摂取のLD50が載っていませんでした。

体の水分量というのは、運動や乾燥などによって非常に変動しやすいと考えられますので、LD50を出すのは難しいのかもしれませんね。

 

参考までに

水(water)のマウスでの腹腔内投与におけるLD50はおよそ25000mg/kgなので、*5*6

ヒト60kgで換算すると、1500000mg≒1.5kg

そんなに腹の中(腹腔内なので内蔵と皮膚との間みたいなところ)に水入れられたら死にそうですね。。

 

調べたところ、ラットでLD50が90000mL/kgという記述がネット上にはみられました。*7

※ソースは不明です。

この場合は、

ヒト60kgで換算すると、5.4kgとなりますので、まあ一度にこんなに飲んだら死にそうではありますね。

また、実際に5Lの水を飲んで水中毒(低ナトリウム血症)になった例があるようです。*8

 

 

※上述のLD50は全て動物実験によるものなので、ヒトにそのまま当てはまるとは限りません。

 

 

と、まあ余談でしたが、何をお伝えしたいかと申しますと、

食べ物や飲み物の危険性(ここでは急性毒性)というのは、全て”量”によって決まっているということです。

したがって、文字通り”いくら食べても大丈夫”というような食品は存在しません。

それを理解した上で、”我々が摂取する範囲では非常に安全である”というような物差しで判断していくことが大事なのではないでしょうか?

 

 

 

 

 化学物質という言葉

少し長いですが、引用です。

「化学物質」という言葉も巷でよく使われますが、定義のはっきりしないまま使われ、「何やら体に悪い人口の化合物」程度のニュアンスで用いられることが多いようです。本来この言葉は、一般的には「原子、分子および分子の集合体など、独立かつ純粋な物質」、狭義では「研究や工業生産によって人工的に合成された物質」という意味であり、毒性の有無や天然・人口の区別は本来問われません。要するに我々の身の回りには、「化学物質」でないものは一つとしてないのです。窓ガラスはケ酸ナトリウム、木はリグニンやセルロース、食肉はアクチンやミオシンといった「化学物質」の集まりであり、それ以上でも以下でもありません。

続いて、以下のように綴っています。

 ところが中には「化学合成された、我々の身体や環境に悪影響を及ぼす物質を化学物質と呼ぶ」とはっきり書いてある本さえあります。ここで化学者は怒るべきでしょう。この定義では「化学」とは「体や環境に悪いものを作り出す学問・技術」ということになってしまいますから。

 もちろん、水俣病などに代表される「化学物質」が引き起こした害も数多く、これらを忘れ去ることは許されません。しかし世間にはこびる「化学」「合成」アレルギーには過剰反応の部分も少なからずあり、また化学の力がもたらした恩恵をあまりに無視し過ぎているようにも思えるのです。

このように、確かに「化学物質」という言葉はあやふやなまま世間で用いられていると思います。

本書では悪者とされている化学物質に焦点を当てて、その危険性は本当なのか?というところを解説しています。

ですが、どうも肝心な表題の「化学物質はなぜ嫌われるのか?」という問いに対する回答が薄かったように思います。

 

 

ということで、一応補足しておくと、 

日本では、高度経済成長期に発生した4大公害*9がありましたし、海外ではレイチェルカーソンが沈黙の春沈黙の春 (新潮文庫))を出版し農薬などの生物濃縮の問題点が指摘されました。

 

ちなみに4大公害を簡単にまとめると以下の通りです。

(地域―病名―原因物質)

・新潟―水俣病メチル水銀

・富山―イタイイタイ病カドミウム

・三重―四日市ぜんそく―SOx

・熊本―水俣病メチル水銀

 

※SOxは硫黄酸化物、Sは硫黄原子、Oは酸素原子、xは酸素原子が決まった数ではなく色んなパターンがあることを示しています。

 

また、教科書的な四大公害には含まれませんが、同時期にカネミ油も発生しており、これは北九州でダイオキシン類が混入した食用油が販売されたことによる公害です。*10

 

これらはすべて化学的・工業的に生産された副産物や、使用された物質の混入が原因によるものです。

こういった時代の背景によって、”化学物質は忌み嫌うべきものだ”という概念が生まれたのでしょう。それは仕方のないことなのかもしれませんね。

 

 

DDTの復活

さて、ここで、皆さんはDDTという農薬をご存じでしょうか?

DDTはDichloroDiphenylTrichloroethane(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)の略称で、マラリア対策の殺虫剤として現在でも使用されています。マラリアは蚊を媒介する非常に強力な感染症で、現在もアフリカ等で猛威をふるっています。*11*12

DDT(dichlorodiphenyltrichloroethane)のマウスにおけるLD50(経口投与)はおよそ150-300mg/kgとされていますので*13、急性毒性に関しては、毒性はあるものの、大変危険というわけではありません。

DDTは安価でヒトでの毒性が小さく、DDTを発明したミュラーはその功績が認められてノーベル賞を受賞しています。

しかし、DDTは、その効能と安全性が議論を呼び、波乱万丈の人生(?)を歩んでいます。

以下、引用です。

 「魔法の薬」と思われたDDTの没落が始まったのは1962年のことです。環境運動家のバイブルともいわれる、『沈黙の春』 (レイチェルカーソン著)の出版がその契機でした。カーソンはDDT食物連鎖によって昆虫を食べる鳥の体内に蓄積し、鳥たちを死に追いやっていると訴えたのです。さらに長期に渡る環境への残存性、ヒトに対する発ガン性などが次々に指摘され、一気にDDT禁止運動は加熱していきました。その後、水や食品、南極の氷に至るまでDDTが検出され、さらに人間の母乳までもが汚染を受けていることがわかって、DDTは1968年に使用が全面禁止されることとなりました。

(中略)

 こうして抹殺されたDDTですが、最近の研究によって少なくともヒトに対しては発ガン性がないことがわかっています。また環境残存性に関しても、普通の土壌では細菌によって2週間で消化され、海水中でも1ヶ月で9割が分解されることがわかっています。

(中略)

 そして2006年に入り、ついにWHO(世界保健機関)は「マラリア対策のために、室内でDDTを使用することを推奨する」という声明を発表したのです。

 

このように、世界規模で専門家による議論が展開されてきました。ここまでくると、我々一般人が参加できるような話ではありませんが、DDTの栄光と没落、そしてその復活は非常に考えさせられるテーマではありませんか?

全てのものには良い面と悪い面が存在しますよね。

悪い面ばかりが取り沙汰されますが、我々は、それらのメリットとデメリットの比を最大化できるように努力していく必要がありますね。

DDTの使用は、人類にとっての機会費用を最小化させる選択であったわけですね。

 

 

まとめ

まだまだ本書の内容は広がっていきますが、ご紹介するのはこのくらいにしておきます。

 

この記事で興味を持っていただけたなら幸いです。

化学物質が嫌いな方、科学が好きな方、健康に気を遣っている方、是非手に取ってみてください。

きっと新たな発見があるはずです。

 

巷に広がる複雑な化学物質の話を理解していくことはとても難しいと思いますが、大切なのは「なぜ」そうなるのか、というところだと思います。

決して本書の内容を全て鵜呑みにするのではなく、話の筋道に矛盾が生じていないのかを自分自身で確かめていく視点を身に付けてほしい、ということが著者の佐藤さんが伝えたいことなのではないでしょうか?

 

 

本日もお読みいただきありがとうございました!\(^o^)/

 

 

 

他の書評はこちら↓↓

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毒物の記事はこちら↓↓

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*1:https://toxnet.nlm.nih.gov/cgi-bin/sis/search2/f?./temp/~aVmzDK:3

*2:Sax, N.I. Dangerous Properties of Industrial Materials. 6th ed. New York, NY: Van Nostrand Reinhold, 1984., p. 2478

*3:https://toxnet.nlm.nih.gov/cgi-bin/sis/search2/f?./temp/~a59m5E:1

*4:[Lewis, R.J. Sr. (ed) Sax's Dangerous Properties of Industrial Materials. 11th Edition. Wiley-Interscience, Wiley & Sons, Inc. Hoboken, NJ. 2004., p. 3238] 

*5:https://toxnet.nlm.nih.gov/cgi-bin/sis/search2/f?./temp/~SHg4pf:1

*6:[Lewis, R.J. Sr. (ed) Sax's Dangerous Properties of Industrial Materials. 11th Edition. Wiley-Interscience, Wiley & Sons, Inc. Hoboken, NJ. 2004., p. 3692]

*7:https://www.answers.com/Q/What_is_the_LD50_for_water

*8:doi: 10.1136/bcr-2012-008299.

*9:https://www.s-yamaga.jp/kankyo/kankyo-osen-1.htm

*10:https://kotobank.jp/word/%E3%82%AB%E3%83%8D%E3%83%9F%E6%B2%B9%E7%97%87-45970

*11:https://www.forth.go.jp/useful/malaria.html

*12:https://www.iph.osaka.jp/s010/030/020/040/010/20180107112000.html

*13:https://toxnet.nlm.nih.gov/cgi-bin/sis/search2/f?./temp/~i3MCTQ:3