「ハンカチ」(重松清『青い鳥』より)~本当に伝えたいこと~
こんにちは!
今回ご紹介する書籍はこちら!
(ネタバレありです)
ジャジャン♫
この「青い鳥」の中の一つ目、「ハンカチ」です!
こちら「青い鳥」は重松清作の短編小説です。
重松清さんは2001年に「ビタミンF」で直木賞を受賞されています。
この著者は、純文学のような難しい表現は少なく、平易な文章で執筆されています。
児童文学ですね。たしか小学校の国語の教科書にもこの方の作品が載っていた記憶が。
実際、自分が児童のときに、こんな小説を読んでいたら、もっと豊かな人生になっていたのか?とか考えてしまいますね。
というか聞きたいんですが、児童文学って、本当に児童が読んでいますか?
だいたいドッヂボールとポケモンしかやってなかったですよね?笑
さて、本書は短編小説といっても、実は共通する登場人物がいるので(毎回主人公は異なる)、一話完結型のドラマを観ているような感じですね。
その中でも、「ハンカチ」は、私お気に入りの物語です。
わずか50ページ強の短編小説で涙を誘われること間違いなしです。
泣きたいときに読むと良いですね(^^)
この物語には、言葉を上手く話せない人物が2人登場します。
一人は、中学三年生の千葉知子(主人公)
もう一人は、担任の村内先生(各話共通の登場人物)
千葉知子は、作中では、”場面緘黙症”として紹介されています。場面緘黙症*1とは
話す能力があるにもかかわらず、ある特定の場面では発言や会話ができなくなる状態。幼児期に出現することが多く、家族とは話せるが、学校などでは誰とも会話できず、また、他者との関わりを避けようとするなどの行動がみられる。社会に対する不安や緊張が強いために起こるとされる。選択性緘黙症。選択無言症。
また、本作品中の村内先生は吃音症*2です。
吃音症とは、俗に言う”どもり”のことです。「お、お、お、お、おはようご、ご、ございます」というような言葉の出し方になってしまう症状ですね。
私は知り合いに、同じく言葉を上手く話せない(おそらく吃音症の)方が2人います。面と向かって、吃音症ですか?と確認したことはありませんが、明らかに言葉がつっかえてしまう症状があります。特に、新しい場面、緊張している(と思われる)場面で症状が激しくなっているように見受けられます。
そういうこともあって、この物語はとても心に染み込んできました。
小説の話を現実と同じにしてはいけませんが、読書とは考えるきっかけを与えてくれるものですね。
この物語では、自らの非行を糾弾された後、精神的ショックで上手く話すことができなくなった主人公、千葉知子が言葉を取り戻す物語です。
伝えることの大切さ、たどたどしくても伝えようとすることの素晴らしさを教えてくれます。
これは、何も吃音に限らず、全ての人に当てはまることでしょう。
逆に饒舌すぎて、的を射ていない会話になるのも考え物です。
皆さんは、うわべだけで、意味のない会話をしていませんか?
物語のラスト、千葉知子は自らの殻を破り、「本当に伝えたいこと」を言います。
それは、千葉知子が、村内先生の”先生”としての信念に気付いたからです。
以下、長いですが、一番大事だと思うシーンの引用です。
ほんとうにしゃべりたいことは、しゃべらなくてはいけない。
答えがほんとうに欲しいときには、やっぱり、訊かなくてはいけない。
村内先生が教えてくれた。
予行演習で生徒の名前を呼ぶとき、先生は何度もつっかえた。「千葉知子」はあいかわらずだめだし、他の子の名前も、「タ」行は全滅だった。一生に一度の卒業式でうまく名前を呼んでもらえないのは、生徒も嫌だし、親だって嫌だ。
先生にもみんなの困った様子やうんざりした本音は伝わっているはずだ。他のクラスの先生たちも、村内先生が三年一組の生徒の名前を呼びはじめると、うつむいたり、背広の袖についたチョークの粉を急に気にしたり、誰もいない体育館のステージを見たりして、どうしていいかわからなくなっているみたいだった。
でも、村内先生は、何度も何度もつっかえながら生徒の名前を呼ぶ。クラス担任の仕事だから、しかたなく、――ではない、とわたしは思う。信じている。クラス全員の日記にていねいに感想を書いてくれたように、先生は誰のときでも、その子の顔を見て、いちいち息を大きく吸い込んで、胸を張って、つっかえながら、名前を呼んでくれる。みんなにはわからないだろうか。先生は名簿を順番に読み上げているんじゃない。わたしたちを、一人ずつ、呼んでくれているんだ。
ほんとうに呼びたい名前は、自分で呼ばなくてはいけない。
人前で話すのが仕事の先生としては致命的な吃音症。
言葉を発するのが苦手でも、そこから逃げ出さずに生徒一人一人と向き合う村内先生。
先生の姿勢が、千葉知子の心を開きます。
私の知人もたどたどしくても、自分の言葉を述べます。
それは、滑らかに話せる人が発する言葉よりも強く感じるものです。
まあ、真剣に聞いたところ、他愛のない冗談であった、なんてこともあるのですが。笑
本書を読むと、
自分が話す言葉は、村内先生のように人の心を動かすことができるのだろうか?
知人のような重みを乗せることができているのだろうか?
そんなことを考えてしまいますね。
私もどちらかというとコミュニケーションは苦手なのですが、言葉を飲み込むよりはちゃんと伝えなきゃと思って日々暮らしています。
勇気を出して言葉にすることで改善することってありますからね!
余談ですが、私はこの物語を読むと、自分が今までお世話になった先生方を思い出します。
NHK「プロジェクトx」で見た熱血教師に憧れて、教師になられた方もいました。
子供が大好きな先生でした。
皆さんが思い出す先生方はどんな方でしょうか…?
最後、千葉知子は「本当に伝えたいこと」を言います。
「……千葉知子」
わたしは唇を噛みしめた。千葉ちゃん、順番呼ばれてる、と隣の寺山遥香さんに腕をつつかれたけど、黙ったまま目をつぶった。
「……千葉、知子」
細野先生はもう一度呼んだ。わたしはハンカチを思いきり強く握りしめる。
言える――?
言える。ほんとうに伝えたいことだから、言える。
まわりがざわつくなか、わたしは言った。
……最後は、是非皆さんの目で確かめてください!!
+++
ということで、本日は重松清さんの「青い鳥」より、「ハンカチ」をご紹介させていただきました!
皆さんは 「本当に伝えたいこと」 伝えられていますか?
気になった方は是非、”ハンカチ”を片手に御一読ください。
本日も最後までお読みくださり、ありがとうございました!\(^o^)/
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