ステロイド低反応性(論文紹介)

こんにちは!

 

さて、本日は以前に引き続き、ステロイド外用剤のお話を。

 

以前の記事はこちら↓↓

 

hirororo.hatenablog.jp

  

今回は、ステロイド低反応性のお話です。

すなわち、ステロイドの使用で患者さんが心配される点、ステロイドが効かなくなって、だんだん強い薬に変えていかなければならなくなるのではないか?

というところをひも解いていきたいと思います。

 

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※写真は内容とは関係ありません 

 

 

論文紹介

それではいきましょう!

今回ご紹介する論文はこちら!!

ジャジャン♫

 

Glucocorticoid resistance in atopic dermatitis associated with decreased expression of glucocorticoid receptor-α in peripheral blood mononuclear cells*1

タイトル訳: アトピー性皮膚炎におけるグルココルチコイド(ステロイド)低反応性は、抹消血中単核細胞(PBMC)のグルココルチコイド受容体α(GRα)の発現現象に関係している。

 

要約します:

アトピーの患者さんの中にはステロイド外用剤を使っていて、だんだんその効果が弱くなっていく場合がある。

それは、その患者さんを調べると、体の中の細胞のGRαという受容体が減少していることが分かった。

だから、ステロイド低反応性になるんじゃないの?

というお話です。

 

 著者はShigeki INUIさん、 Yasuyuki SUMIKAWAさん、 Hideo ASADAさん、 Satoshi ITAMIさんの4人です。

所属機関はDepartment of Regenerative Dermatology, Osaka University School of Medicine, Osaka, and Department of Dermatology, Nara Medical University, Nara, Japan

つまり大阪大学医学部と奈良医科大学の皮膚科の先生方ですね。

2010年に発表されています。

 

 

 

結果と考察

今回の患者さんは、13歳の頃からアトピー性皮膚炎を患っている、51歳の男性です。

患者と、ステロイド反応性低下のないアトピー患者6人、健常人3人とを比較しました。

 

抹消血中単核細胞(PBMC)中のGRαとGRβの両方を比較したが、GRαだけが、今回の患者で著しく減少していました。

(GRβはαに拮抗する受容体であると考えられています。)

 

このことから、GRβはステロイド低反応性にはあまり関与せず、GRαが関与していると考えられました。

すなわち、ステロイド外用剤を使用することによって、GRαが減少し、反応性が落ちる可能性があることを示唆しています。

 

 

アトピーガイドラインではどうか?

さてさて、日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018*2では、ステロイド低反応性について次のように記載されています。*3

 内服ステロイド薬で報告されているようなステロイド低反応性,または急速な効果の減弱(タキフィラキシー)の病態がステロイド外用薬でも生じるかは懸案となってきた.米国皮膚科学会のアトピー性皮膚炎ガイドラインには,専門家によりステロイド外用薬にタキフィラキシーの生じ得る可能性が指摘されているものの,その根拠となる研究や論文はないと記載されている

 タキフィラキシーとは、同じ薬を使用しているのに効果が出なくなることで、いわゆる「ステロイドが効かなくなる」ということを指しています。*4

つまり、ステロイドを使っていたら、だんだん効かなくなるケースがあるかも知れないけど、今のところはっきりした根拠はないよ。

と書かれています。

 

 

 

本報告だけでは不十分なところ

ところが、ガイドラインよりも以前に発表された本論文では、まさにその「ステロイドを使っていると効かなくなる人がいるよ!」ということが報告されているわけです。

にも関わらず、「はっきりとした根拠がない」と述べられている理由、それは、規模の小ささです。

今回の報告では、ステロイド反応性低下がみられる患者は一人、比較対象も全部で9人となっているため、極めてまれなケースの可能性があると著者らは語っています。

 

また、今回は技術上の問題から、抹消血中単核細胞(PBMC)を調べていますが、アトピーにおいてメインとなるのは、やはり皮膚に存在する免疫細胞になります。

(皮膚細胞中のGRαのみを検出することが難しいようです)

 

さらに、近年は、TNF-α*5がGRを介さずに細胞外キナーゼのシグナル経路を変えることによって、ステロイドの反応性を減少させることが報告されています。*6

 

ですので、そのあたりの細胞や経路についても調べていかなければ、本報告だけでは、「ステロイド低反応性を説明できる!」とはならないわけですね。

 

 

まとめ

アトピー性皮膚炎のガイドラインによれば、

外用剤の使用によってステロイド低反応性が引き起こされるのかどうかは、曖昧なところとなっています。

格好良く言えば、「根拠がない」

格好悪く言えば、「まだわかりません」

ということだと思います。

はっきりせずに申し訳ないですが、それが真実だろうと思います。 

 

ただし、本論文で紹介されているように、実際にステロイドが効かない患者さんは存在するものと思われます。

本論文では、GRαの減少がその要因ではないか?と考えられました。

しかしながら、ステロイド低反応性の原因は他にも考えられ、「そもそも、遺伝的にもともと効かない」といったパターンも考えられますし、TNF-αなどの他の因子が関与している可能性も挙げられています。

 

今後、研究が進んで、ガイドラインにも、ステロイド低反応性についての記述が加筆されていくかもしれませんね。

 

 

 

 

本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました!\(^o^)/

 

 

 

 舌下免疫療法(経口免疫療法)の記事はこちら↓↓

 

hirororo.hatenablog.jp

 

*1:Glucocorticoid resistance in atopic dermatitis associated with decreased expression of glucocorticoid receptor-alpha in peripheral blood mononuclear cells. Inui S, Sumikawa Y, Asada H, Itami S. J Dermatol. 2010 May;37(5):496-9. doi: 10.1111/j.1346-8138.2010.00866.x.

*2:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018.公益社団法人日本皮膚科学会. 一般社団法人日本アレルギー学会. アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会

*3:https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/atopic_GL2018.pdf#search='%E3%82%A2%E3%83%88%E3%83%94%E3%83%BC%E6%80%A7%E7%9A%AE%E8%86%9A%E7%82%8E+%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3'

*4:https://health.joyplot.com/HealthWordsWiki/?%E3%82%BF%E3%82%AD%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%A9%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%BC

*5:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%85%AB%E7%98%8D%E5%A3%8A%E6%AD%BB%E5%9B%A0%E5%AD%90

*6:Onda K, Nagashima M, Kawakubo Y, Inoue S, Hirano T, Oka K. Mitogen-activated protein kinase kinase 1/extracellular signal-regulated kinase (MEK-1/ERK) inhibitors sensitize reduced glucocorticoid response mediated by TNFalpha in human epidermal keratinocytes (HaCaT). Biochem Biophys Res Commun. 2006 Dec 8;351(1):266-72. Epub 2006 Oct 19.

古典的な時間SF小説が読みたいときにオススメの作品~猫とコールドスリープ~

こんにちは!

(2020/6/7更新)

 

本日ご紹介する書籍はこちら!(ネタバレあり)

ジャジャン♫

 

 

夏への扉 (ハヤカワ文庫SF)

夏への扉 (ハヤカワ文庫SF)

 

 

タイトル:夏への扉

原題:The Door into Summer

著者:ロバート・A・ハインライン

訳者:福島正実

 

SFが好きな方は是非一度手に取ってみてください。

 

この本、「有名な作品」というだけで、読んでみました。

何の予備知識もありませんでした。

あらすじを読んで、おそらくSF?という感覚でした。

 

結果、SFでした。

というか、まさかのタイムトラベルもので、最高にワクワクしました!

後半から、回収されていく伏線に読む手が止まりませんでした。

 

しかも、これが出版されたのが、なんと1956年という衝撃!

およそ60年前に書かれたものとは思えないほど、違和感なく物語の中に引き込まれてしまいますよ。

60年前ですよ、60年。

何度も言いますが衝撃です。笑

 

本作品では、西暦2000年の世界が描かれます。

自分が生まれるより遥か昔(日本でテレビが初めて放送されたのが1953年!*1*2)に、今の世界とそう変わらない科学技術を予想して書き上げているという事実が本当に信じがたいです。

 

ロバート・A・ハインライン氏は、SF作家であり、他にも評価を受けている傑作をいくつも世に送り出しています。本書は、特に日本で人気が高い作品です。*3

 

 

 

猫大好き

 

著者は、大の猫好きのようです。

ピクシーが死にかけています……尿毒症です。

(中略)

わたしたち夫婦はいささか精神的にまいっています……この小柄な猫に度を超す安着を抱くようになっていたのです。もちろん、飼いはじめたときから、こうなるのが避けられないのは承知していましたし、ペットがわたしたちより長生きするはずもなく、先立たれるだろうとは思っていました――わたしたちはそのときに耐える心の準備をしたほうがいいんでしょうね。にもかかわらず、そうしたところで、ちっとも気が楽になるものではありませんが……。

上記は、物語の一部ではありません。

実際に著者が、当時手紙に記していた文章の抜粋です。ピクシーとは著者が飼っていた猫で、本書に登場するピートという猫のモデルになっていました。*4

そして、本書は以下の文章から始まります。

A・P、

フィリス、

ミックとアンネットほか

世のすべての猫好きに

この本を捧げる

いかがでしょうか?

私は、さして猫が好きなわけではありませんが、

冒頭の文章から、この作品が、心温まる物語であろうことを確信しました。

 

 

 

めっちゃだまされてる

 

この物語の主人公ダン、婚約者のベルにめっちゃだまされます。

えぐいくらいだまされて、薬物も打たれます。

ボコボコにされているので、きっと皆さんも主人公を応援したくなります。笑

 

 

 

30年寝て未来

 

本作品の肝となる部分です。

コールドスリープ*5という技術によって、年を取らずに30年眠ります。

低体温にして、当人の時間の流れを遅くして、何十年も後に目覚める、というものです。

これによって、主人公のダンは、1970年から、30年後の2000年まで眠らされてしまいます。(愛猫ピートは置いてけぼりをくらいます)

 

このコールドスリープという概念は、私は今回初めて読んだので、非常に面白いなあと思いました。

現実にもできそうですよね?

吹雪の中で、極度の低体温になったはずなのに、生きていた、みたいな話があるじゃないですか。

できそうでまだできないような話ってワクワクしませんか?

 

ダンは、2000年の世界で、割と楽しく過ごします。

しかし、時折、過去の出来事と自分の記憶に食い違いが生じて、腑に落ちないところを見つけます。

 

 

 

え、戻ってくるん?

 

なんと、2000年の未来の世界は、科学技術が発達していて、主人公のダンはタイムマシンによって、1970年に舞い戻ってきます!

 

戻ってくるんかーい!

 

完全に一方通行の物語だと思っていたので、まんまと騙されました。

なんせ、1970年には、タイムマシンなどなかったわけですから。

物語の後半に突如タイムマシンが現れます!(ただし未完成)

 

ここで、読者は、それまでの違和感への記憶を辿ることになります。

1970年、ダンが婚約者のベルに騙されたときに、行方の分からなくなった自動車!

あそこから、全て伏線だったのかと!!

 

 

 

やっぱり人を信じる

 

 かつて、相棒に騙されたダンは、それでも、人を信じることを決心します。

「それじゃ、なぜぼくなんかを信用するんだ。一番の方法は、ぼくを会社の弁護士にしておくことだと思うぜ」

ぼくは考えようとした。頭がずきんずきんと痛んだ。ぼくはかつて共同で事業をした、そしてものの見事にだまされた。が――なんどひとにだまされようとも、なんど痛い目をみようとも、結局は人間を信用しなければなにもできないではないか。まったく人間を信用しないでなにかをやるとすれば、山の中の洞窟にでも住んで眠るときにも片目をあけていなければならなくなる。いずれにしろ、絶対安全な方法などというものはないのだ。ただ生きていることそれ自体、生命の危険につねにさらされていることではないか。そして最後には、例外ない死が待っているのだ。

ダンの言う通り、我々人間は、皆支え合って生きていくものだと思います。

ダンは再び、人を信頼することで、自分の未来を託します。

 

 

予想以上にハッピーエンド

 

1970年に戻り、全てを解決したダンは、再び2000年までコールドスリープします。

そこは、愛猫ピートと、深い愛で結ばれた奥さんがいる世界です。

 

 

 

まとめ

 

いかがだったでしょうか?

 

今回は、ロバート・A・ハインライン著の「夏への扉」をご紹介させていただきました。

この作品は完璧にハッピーエンドです。

安心してお読みください。

 

正直、猫は、まあ、あんまり本筋には関係ありませんが。笑

物語の終盤で、ピートと再会するときは、思わず笑みがこぼれることでしょう。

 

というわけで、猫の物語ではありませんので、猫の話が読みたい!っていう人にはあまりお勧めできません。 

SFを楽しみたい方、60年前の作品に脱帽したい方、必読です!!

 

 

それでは、私も夏への扉を探しに行ってきましょうか。

 

 

 

本日もお読みいただき、ありがとうございました!\(^o^)/

 

 

 

 

 他の書評はこちら↓↓

 

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ステロイド外用剤の副作用(論文紹介)

こんにちは!

 

本日は、ステロイド外用剤の副作用についての論文をご紹介したいと思います。

私はアトピー性皮膚炎*1とずっと付き合っているのですが、ステロイド外用剤の副作用についての話は皆さんもよく聞くところではないでしょうか?

私も、なるべくステロイドを使わないようにと思って幼少期を過ごしてきました。

 

しかしながら、ここ最近は、副作用について大げさに言われることも少なくなってきたと思います。一昔前は、かなり恐怖心をあおるような記事が多かったと思うのですが、

今、ヤフーで検索してみても、至極真っ当な記事が出てきますね。↓↓

https://search.yahoo.co.jp/search?p=%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%89+%E5%89%AF%E4%BD%9C%E7%94%A8&aq=-1&oq=&ts=8&ei=UTF-8&fr=crmas&x=wrt

 

日本アレルギー友の会↓↓

https://allergy.gr.jp/consult/atopy/faq

とても良いサイトですね。

 

というわけで、最近はどうでしょう、ステロイドの副作用が恐くて悩まれる方も減ってきているのでしょうか。

 

というわけで需要があるのかないのか分かりませんが、(笑)

本日は、実際にステロイド外用剤の使用で副作用が報告された事例を紹介したいと思います。

皆さんは、実際にどういう使い方をするとどんな副作用が起きるのかを知っていますか?

私はそういった本質を理解せずに、ステロイドの使用を避けていた時期もありました。

漠然とした不安というものは、恐怖を煽り、正常な判断を阻害します。

 

私自身は、巷に広がる「ステロイドへの恐怖」というものは、

ステロイドを止めると悪化する

ステロイドを止められなくなる

の2点だと思っています。

これが、真実かどうかは、記事の最後で述べたいと思います。

 

 

 「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」ということわざがあります

本記事が、皆さんが彼(ステロイドの副作用)を知り、皮膚炎と上手く付き合っていく際の一助になれば幸いです。

 

 

**

あと、余談なんですが、ムキムキマッチョになりたい人が 使う「ステロイド*2ですが、これは副腎皮質ホルモン(糖質コルチコイド)の「ステロイド*3とは異なるものです。

すごく紛らわしいのでやめていただきたいのですが、慣習からどちらも単にステロイドと呼ばれています。

マッチョのステロイドは筋肉増強剤ですが、皮膚炎治療のステロイドは筋肉を委縮させますのでご注意を。。

同音異義語です。

**

 

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※写真は内容とは関係ありません 

 

 

 

 

 論文紹介

さて、本日ご紹介する論文ですが、

残念ながら、オープンアクセスではありませんが(読むのにお金がかかります)

一つの情報として興味をもっていただければなによりです。

(今度はオープンアクセスの論文を紹介します。反省。)

 

 

 

では、こちら!

 

Adrenal insufficiency as a result of long-term misuse of topical corticosteroids. *4

 

タイトル訳: 長期間にわたる不適切な局所副腎皮質ホルモン剤(コルチコステロイド)の使用によって引き起こされた副腎不全

要するに、ステロイド外用剤を使って、副作用で副腎の機能がおかしくなったよ、っていう話です。

 

 著者はBöckle BCさん, Jara Dさん, Nindl Wさん, Aberer Wさん, Sepp NTさんの5人です。

所属機関はDepartment of Dermatology, Innsbruck Medical University, Innsbruck, Austria.

オーストリア医科大学の皮膚科となっています。

 

 

 

本論文では、二人の患者が登場します。

一人はアトピー性皮膚炎(患者Aとします)、一人は乾癬(患者Bとします)を患っていました。*5

 

さてさて、今回の患者さんは、どちらも長期間のステロイド外用剤の使用歴があります。

少しややこしいのですが、Aの方は数年前にステロイドの静脈注射を受けていました。

しかしながら、受診時には、AもBも、ステロイド外用剤を長期間使用していたという状況になります。

 

 

患者Aの場合

まず、Aについてです。

34歳男性。

アトピー性皮膚炎を11年間患っていました。

ステロイド外用剤の使用歴は同じく11年間です。

主な症状等は以下の通り:

・紅皮症(皮膚が赤く腫れた状態になる)

・顕著な皮膚萎縮(これにより両脇に複数の紫色のスジが見られた)

・出血斑、紫斑病(あざのようなもの)

・脂肪の偏り

・両足の筋肉の萎縮

・顔の膿疱

 ・血中コルチコステロイド濃度の減少
 (朝の血中濃度が13μg/L《正常範囲は51-236》)

 

 

患者Bの場合

続いて、Bの説明です。

24歳男性。

7年間患っている乾癬が悪化し、来院しました。

ステロイド外用剤は同じく7年間使用しておりました。

主な症状等は以下の通り:

・野牛肩

・筋肉の萎縮

・皮膚萎縮

・右脇に紫色のスジ

・顔面の膿疱

・血中コルチコステロイド濃度の減少(朝の血中濃度が4μg/L《正常範囲は51-236》)

 

 

本当はとても幅広い副作用

ここまで目を通してくださった方、ありがとうございます。

詳しい言及は避けますが、患者の症状は、主にクッシング症候群によるものでした。*6

 

さて、ネットではステロイドの副作用について色々と書かれていることがありますが、果たしてどれほど根拠のあるものなのでしょうか?

今回ご紹介した論文は、国際誌で英文で書かれて出版されているもので、立派な根拠になりうるものです。

私も調べるまで、巷で言われるステロイドの副作用はどこまで本当なのだろうか?と思っていましたが、本当にあるんですね。

特に、紅皮症などや皮膚萎縮などは、いかにもといった感じの副作用ですね。

 

 

ただし、このケースは、かなり長期間、不適切に使用した場合の話です。

ここでは、決して、やみくもにステロイド外用剤の使用について、不安を煽りたいわけではありません。

 

 

 

 

 

それって本当にステロイドの副作用なの?

アトピーは今でも原因がはっきりしておらず、一生付き合っていかなければならない病気です。(今後、原因解明が進み、完治するようになるかもしれませんが。)

症状が出ていない状態のことを「寛解」と言います。*7

アトピーは「寛解」にもっていくことはできても、「完治」させることはなかなか難しいのです。

 

完治させることは難しいが、症状を抑えることはできる、

これを逆手に取って、アトピービジネス*8が起こりました。

ステロイドを止めると症状が悪化する→そんな薬に頼っていてはダメになる→もっといいものを紹介しよう 

と、こういう構図になるわけですね。

 

 

ここで、本論文の副作用を振り返りますと、ステロイドの副作用というものは、とても幅広く、おそらく一般の方の理解を超えるものだと思います。

(副腎皮質ホルモンは生体内で実に様々な作用を有しており、副作用も多岐に渡ります。本記事も、論文の内容をそっくりそのまま書いているわけではありません)

今回のケースは、かなり長期間(それぞれ11年と7年間)、医師の指導を守らずにステロイド外用剤を使用し続けてきた結果です。

ですが、お二人の患者はその後1年ほどかけて、どちらも通常の状態に戻していくことができました。

 

ここで、皆さんに考えていただきたいことは、自身が思い描くステロイドの副作用というものは「本当にステロイドの副作用なのか?」ということなのです。

 

ステロイドを何年使用しても、止めたら皮膚炎が悪化する。

ステロイドを中止したら悪化するので止められなくなる。

それは、当たり前のことです。

ステロイド外用剤は魔法のような薬ですが、少なくともアトピー性皮膚炎を根本から直すものではありません。

患者は、その事実を受け入れなければなりません。

 

私も幼少期は、いつかアトピーは治るもの、「完治」するものだと思っていました。。

 

しかし、アトピーとは、体質のようなものです。

  • いくら努力しても、プロ野球選手のように160キロのストレートは投げれない。
  • いくら努力しても、曙のように200cm、200キロの巨漢にはなれない。
  • いくら努力しても、アトピー性皮膚炎は「完治」はしない。

すべて同じことです。

例えば、アトピーの患者では、皮膚に含まれるフィラグリンというタンパク質をコードする遺伝子が欠損している方が多いことが知られています。*9

 

 

しかしながら、完治することはないという事実を受け入れ、ステロイドを適切に使用するようになってから、私自身のQOLはかなり向上しました。

普通にスポーツをして、普通にお風呂に入って、普通に寝れる日々。

ステロイドはとても素晴らしい生活を与えてくれました。

 

人は皆、食事を取りますし、空気も吸いますし、睡眠もとらなければ体調を崩します。アトピーの方は、そこにステロイドが加わっただけだと思えば、少し気が楽になりませんか?

 

 

 

まとめ

本記事では、ステロイド外用剤の長期使用で実際に副作用が報告された事例をご紹介しました。

論文中では、なかなかショッキングな写真も載っています。(ここでお見せできませんが。)

 

ここで、やっぱりステロイドは危険だと考える方もいらっしゃると思います。

私も改めて論文を読んで、ステロイドの副作用は複雑だなあ、と感じました。

ですが、基本的に外用剤のみでこのような副作用が起こる可能性は低いものです。

ステロイドの内服はもっと副作用のリスクが上がります)

 

私自身は、巷に広がる「ステロイドへの恐怖」というものは、

ステロイドを止めると悪化する

ステロイドを止められなくなる

の2点だと思っています。

私自身もそこが恐怖の対象でした。

 

ですが、この2点に関しては、至極当たり前の事実であり、これはおよそ「副作用」と呼べるものではありません。

例えば、ここで「ステロイド」を「ご飯」に置き換えても成り立ちます。

・ご飯を食べるのを止めると死ぬ

・ご飯食べるのは止められなくなる(生命を維持するために。)

これは、果たしてご飯の副作用なのでしょうか??

おそらく、答えは「No」でしょう。

 

 

 

本記事において、「本当のステロイドの副作用」について関心をもっていただけたなら幸いです。

ステロイドに対する漠然とした恐怖心」と向き合う際の参考にしていただければと思います。

 

そして、アトピーで悩んでいる方の背中を、少しでも押すことができれば、私はこの上なく幸せです。

 

 

 

本日もお読みいただきありがとうございました!\(^o^)/

 

 

 

アレルギー関連の記事はこちら↓↓

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*1:https://kotobank.jp/word/%E3%82%A2%E3%83%88%E3%83%94%E3%83%BC%E6%80%A7%E7%9A%AE%E8%86%9A%E7%82%8E-26221

*2:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%8A%E3%83%9C%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%89

*3:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%89%E5%A4%96%E7%94%A8%E8%96%AC#cite_note-16

*4:Böckle BC, Jara D, Nindl W, Aberer W, Sepp NT. Adrenal insufficiency as a result of long-term misuse of topical corticosteroids. Dermatology. 2014;228(4):289-93. doi: 10.1159/000358427. Epub 2014 Apr 15.

*5:https://kotobank.jp/word/%E4%B9%BE%E7%99%AC%28%E3%81%8B%E3%82%93%E3%81%9B%E3%82%93%29-882311

*6:https://medicalnote.jp/diseases/%E3%82%AF%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%B0%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4?utm_campaign=%E3%82%AF%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%B0%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4&utm_medium=ydd&utm_source=yahoo

*7:https://kotobank.jp/word/%E5%AF%9B%E8%A7%A3-469274

*8:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%88%E3%83%94%E3%83%BC%E3%83%93%E3%82%B8%E3%83%8D%E3%82%B9

*9:Palmer CN, Irvine AD, Terron-Kwiatkowski A, Zhao Y, Liao H, Lee SP, Goudie DR, Sandilands A, Campbell LE, Smith FJ, O'Regan GM, Watson RM, Cecil JE, Bale SJ, Compton JG, DiGiovanna JJ, Fleckman P, Lewis-Jones S, Arseculeratne G, Sergeant A, Munro CS, El Houate B, McElreavey K, Halkjaer LB, Bisgaard H, Mukhopadhyay S, and McLean WH. Common loss-of-function variants of the epidermal barrier protein filaggrin are a major predisposing factor for atopic dermatitis. Nat Genet. 2006 Apr;38(4):441-6.

毒物劇物取扱者試験の勉強でワクワクしたこと3選

こんにちは!

以前、危険物取扱者の話を書かせていただきましたが、今回は毒物劇物取扱者試験の話を。
hirororo.hatenablog.jp

毒物劇物取扱者試験とは?


私は、数年前に受験し、合格しました。
この試験に合格したからといって免状や免許がもらえるわけではありません!
ただ、試験に受かりましたよ、という証書が届くだけです。

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本試験に合格していると、「毒物劇物取扱主任者」になることができます!
ちなみに私は主任者ではありませんし、特になる予定もありません。

さらに補足しておくと、化学系の大学を卒業していると、受験の必要なく「毒物劇物取扱主任者」になることができます。
というわけで、私は別に毒物劇物取扱主任者になるためには受験する必要はなかったのですが、『毒物の勉強って楽しそう!(・∀・)』という好奇心だけで受験しました。
化学系の大学を出たからといって、さほど毒物に詳しくなかったし、法令とか微塵も知らなかったので!

ちなみに、勉強に使用した参考書はこちら!

最寄りの図書館で電子版を無料でダウンロードさせていただきました!
いやー、便利な世の中ですねえ。

まあ、電子版だと、マーカーをつけたり、書き込んだりできないのがネックですが。
書き込めない参考書というのはなかなか致命的。(笑)




ワクワクしたことその1

ジメチルエチルメルカプトエチルチオホスフェイト
・・・名前長すぎじゃね??(笑)
理系の人はテンション上がりますよね?
「ちょっとジメチルエチルメルカプトエチルチオホスフェイト取ってくるね〜」ってサラッと言えたらカッコよくないですか!?
え?なに?別にそうでもないって?

試験を受けたのは、数年前ですが、この名前だけは脳裏に焼き付いて忘れていません。
きっと老後も忘れることはないんじゃないかな、と思います。
今後の人生でこの物質を扱うことがあるのかは疑問ですが。

ちなみにこの化合物は有機リン系の殺虫剤(コリンエステラーゼ阻害剤)で、紅色に染色して販売しないといけません。
色を染めているのは、ひと目でその殺虫剤だと見分けるためですね!
特定毒物といって、最大級の危険度をもつ毒物です。


ワクワクしたことその2

ピクリン酸危なすぎwww
甲種危険物でも頻出のピクリン酸!
このピクリン酸、劇物に加えて、なんと第5類危険物にも指定されています。
つまり、体には害があるし、衝撃与えたら爆発するし、金属と接触しても爆発しますww
決して、お目にかかりたくはない物質ですね!


ワクワクしたことその3

濃度によって、劇物かどうかが変わる!

これはどういうことかというと、
例えば、過酸化水素はその濃度が6%を超えるものについては劇物に指定されていますが、それより低い濃度では規制されません!
すなわち、人体に危険であるかどうかは、物質そのものの存在だけでは決められず、「それがどれだけ含まれているか」が重要になってくるというわけです!
もちろん非常に毒性の高いものは、有無を言わさず毒物や劇物に指定されるわけですが、この濃度の概念は「へーなるほどなあ!」と感心した記憶があります。

まとめ

以上、毒物劇物取扱者試験の勉強でワクワクしたこと3つをまとめると、

①ジメチルエチルメルカプトエチルチオホスフェイト
②ピクリン酸
③濃度によって、劇物かどうかが変わる

になりました!
なんかすごいくだらないですが、とりあえずジメチルエチルメルカプトエチルチオホスフェイトが言いたかっただけですねww
この記事を見て、毒物劇物に少しでも興味をもっていただけたなら嬉しいです(^^)


それでは皆さんご一緒に……!

じめちるえちるめるかぷとえちるちおほすふぇいと!!





本日もお読みいただきありがとうございました!\(^o^)/





甲種危険物取扱者試験の勉強でワクワクしたこと3選はこちら↓
hirororo.hatenablog.jp

化学物質はなぜ嫌われるのか?(佐藤健太郎)(2/2)~LD50・DDT編~

 こんにちは!

 

前回の続きで本日もこちらをご紹介します!!

 

 

 

「化学物質はなぜ嫌われるのか ?「化学物質」のニュースを読み解く (知りたい!サイエンス 33)」 佐藤健太郎著 2008年発行

 

前回の記事はこちら↓

 

hirororo.hatenablog.jp

 

 

 

 

(余談)LD50:半数致死量の話

いきなり余談ですが、ここでLD50について触れておきたいと思います。(本書でも、ところどころこの概念が登場します)

 

さて、すべての物質は摂取しすぎたら体に害をもたらします。

害をもたらす程度の指標にLD50があります。これは、半数致死量といい、一回の投与で全体の50%の個体が死亡する量を示します。

分かりやすく言うと、100匹のネズミにLD50の量を食べさせると50匹は死にますよ、という量です。

 

実は、普段から安全だと思って食べているものにもLD50はあります。

 

 

 

 

例えば、砂糖(Sucrose)のラットにおけるLD50(経口投与)はおよそ29700mg/kgなので、*1*2

ヒト60kgで換算すると、1782000mg≒1.8kg

ということで、一度に1.8kgの砂糖をドカ食いすると死に至ります!

と、まあ、現実的に砂糖を一度に1.8kg食べる人はいないと思いますので、砂糖は急性毒性に関しては、安全性が高いと言えるわけですね。

(ただし、日常的な過剰摂取は血糖値の上昇につながりますし、糖尿病のリスクが上がるのでよくありません)

 

 

ここで、食塩(Sodium Chloride)のラットにおけるLD50(経口投与)はおよそ3000mg/kgなので、*3*4

 ヒト60kgで換算すると、180000mg≒180mg

ということで、砂糖の10倍は危険だと言えそうです。

しかしながら、現実的にこの量を摂取しようと思ったら気持ち悪くて嘔吐しそうなので、まあ中毒になる人はいないでしょう。

(塩分の取り過ぎは高血圧の原因になり得るのでやめましょう)

 

 

水(water)についても調べてみましたが、どうもNIH(National Institutes of Health:アメリ国立衛生研究所)には経口摂取のLD50が載っていませんでした。

体の水分量というのは、運動や乾燥などによって非常に変動しやすいと考えられますので、LD50を出すのは難しいのかもしれませんね。

 

参考までに

水(water)のマウスでの腹腔内投与におけるLD50はおよそ25000mg/kgなので、*5*6

ヒト60kgで換算すると、1500000mg≒1.5kg

そんなに腹の中(腹腔内なので内蔵と皮膚との間みたいなところ)に水入れられたら死にそうですね。。

 

調べたところ、ラットでLD50が90000mL/kgという記述がネット上にはみられました。*7

※ソースは不明です。

この場合は、

ヒト60kgで換算すると、5.4kgとなりますので、まあ一度にこんなに飲んだら死にそうではありますね。

また、実際に5Lの水を飲んで水中毒(低ナトリウム血症)になった例があるようです。*8

 

 

※上述のLD50は全て動物実験によるものなので、ヒトにそのまま当てはまるとは限りません。

 

 

と、まあ余談でしたが、何をお伝えしたいかと申しますと、

食べ物や飲み物の危険性(ここでは急性毒性)というのは、全て”量”によって決まっているということです。

したがって、文字通り”いくら食べても大丈夫”というような食品は存在しません。

それを理解した上で、”我々が摂取する範囲では非常に安全である”というような物差しで判断していくことが大事なのではないでしょうか?

 

 

 

 

 化学物質という言葉

少し長いですが、引用です。

「化学物質」という言葉も巷でよく使われますが、定義のはっきりしないまま使われ、「何やら体に悪い人口の化合物」程度のニュアンスで用いられることが多いようです。本来この言葉は、一般的には「原子、分子および分子の集合体など、独立かつ純粋な物質」、狭義では「研究や工業生産によって人工的に合成された物質」という意味であり、毒性の有無や天然・人口の区別は本来問われません。要するに我々の身の回りには、「化学物質」でないものは一つとしてないのです。窓ガラスはケ酸ナトリウム、木はリグニンやセルロース、食肉はアクチンやミオシンといった「化学物質」の集まりであり、それ以上でも以下でもありません。

続いて、以下のように綴っています。

 ところが中には「化学合成された、我々の身体や環境に悪影響を及ぼす物質を化学物質と呼ぶ」とはっきり書いてある本さえあります。ここで化学者は怒るべきでしょう。この定義では「化学」とは「体や環境に悪いものを作り出す学問・技術」ということになってしまいますから。

 もちろん、水俣病などに代表される「化学物質」が引き起こした害も数多く、これらを忘れ去ることは許されません。しかし世間にはこびる「化学」「合成」アレルギーには過剰反応の部分も少なからずあり、また化学の力がもたらした恩恵をあまりに無視し過ぎているようにも思えるのです。

このように、確かに「化学物質」という言葉はあやふやなまま世間で用いられていると思います。

本書では悪者とされている化学物質に焦点を当てて、その危険性は本当なのか?というところを解説しています。

ですが、どうも肝心な表題の「化学物質はなぜ嫌われるのか?」という問いに対する回答が薄かったように思います。

 

 

ということで、一応補足しておくと、 

日本では、高度経済成長期に発生した4大公害*9がありましたし、海外ではレイチェルカーソンが沈黙の春沈黙の春 (新潮文庫))を出版し農薬などの生物濃縮の問題点が指摘されました。

 

ちなみに4大公害を簡単にまとめると以下の通りです。

(地域―病名―原因物質)

・新潟―水俣病メチル水銀

・富山―イタイイタイ病カドミウム

・三重―四日市ぜんそく―SOx

・熊本―水俣病メチル水銀

 

※SOxは硫黄酸化物、Sは硫黄原子、Oは酸素原子、xは酸素原子が決まった数ではなく色んなパターンがあることを示しています。

 

また、教科書的な四大公害には含まれませんが、同時期にカネミ油も発生しており、これは北九州でダイオキシン類が混入した食用油が販売されたことによる公害です。*10

 

これらはすべて化学的・工業的に生産された副産物や、使用された物質の混入が原因によるものです。

こういった時代の背景によって、”化学物質は忌み嫌うべきものだ”という概念が生まれたのでしょう。それは仕方のないことなのかもしれませんね。

 

 

DDTの復活

さて、ここで、皆さんはDDTという農薬をご存じでしょうか?

DDTはDichloroDiphenylTrichloroethane(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)の略称で、マラリア対策の殺虫剤として現在でも使用されています。マラリアは蚊を媒介する非常に強力な感染症で、現在もアフリカ等で猛威をふるっています。*11*12

DDT(dichlorodiphenyltrichloroethane)のマウスにおけるLD50(経口投与)はおよそ150-300mg/kgとされていますので*13、急性毒性に関しては、毒性はあるものの、大変危険というわけではありません。

DDTは安価でヒトでの毒性が小さく、DDTを発明したミュラーはその功績が認められてノーベル賞を受賞しています。

しかし、DDTは、その効能と安全性が議論を呼び、波乱万丈の人生(?)を歩んでいます。

以下、引用です。

 「魔法の薬」と思われたDDTの没落が始まったのは1962年のことです。環境運動家のバイブルともいわれる、『沈黙の春』 (レイチェルカーソン著)の出版がその契機でした。カーソンはDDT食物連鎖によって昆虫を食べる鳥の体内に蓄積し、鳥たちを死に追いやっていると訴えたのです。さらに長期に渡る環境への残存性、ヒトに対する発ガン性などが次々に指摘され、一気にDDT禁止運動は加熱していきました。その後、水や食品、南極の氷に至るまでDDTが検出され、さらに人間の母乳までもが汚染を受けていることがわかって、DDTは1968年に使用が全面禁止されることとなりました。

(中略)

 こうして抹殺されたDDTですが、最近の研究によって少なくともヒトに対しては発ガン性がないことがわかっています。また環境残存性に関しても、普通の土壌では細菌によって2週間で消化され、海水中でも1ヶ月で9割が分解されることがわかっています。

(中略)

 そして2006年に入り、ついにWHO(世界保健機関)は「マラリア対策のために、室内でDDTを使用することを推奨する」という声明を発表したのです。

 

このように、世界規模で専門家による議論が展開されてきました。ここまでくると、我々一般人が参加できるような話ではありませんが、DDTの栄光と没落、そしてその復活は非常に考えさせられるテーマではありませんか?

全てのものには良い面と悪い面が存在しますよね。

悪い面ばかりが取り沙汰されますが、我々は、それらのメリットとデメリットの比を最大化できるように努力していく必要がありますね。

DDTの使用は、人類にとっての機会費用を最小化させる選択であったわけですね。

 

 

まとめ

まだまだ本書の内容は広がっていきますが、ご紹介するのはこのくらいにしておきます。

 

この記事で興味を持っていただけたなら幸いです。

化学物質が嫌いな方、科学が好きな方、健康に気を遣っている方、是非手に取ってみてください。

きっと新たな発見があるはずです。

 

巷に広がる複雑な化学物質の話を理解していくことはとても難しいと思いますが、大切なのは「なぜ」そうなるのか、というところだと思います。

決して本書の内容を全て鵜呑みにするのではなく、話の筋道に矛盾が生じていないのかを自分自身で確かめていく視点を身に付けてほしい、ということが著者の佐藤さんが伝えたいことなのではないでしょうか?

 

 

本日もお読みいただきありがとうございました!\(^o^)/

 

 

 

他の書評はこちら↓↓

hirororo.hatenablog.jp

 

毒物の記事はこちら↓↓

hirororo.hatenablog.jp

 

 

 

*1:https://toxnet.nlm.nih.gov/cgi-bin/sis/search2/f?./temp/~aVmzDK:3

*2:Sax, N.I. Dangerous Properties of Industrial Materials. 6th ed. New York, NY: Van Nostrand Reinhold, 1984., p. 2478

*3:https://toxnet.nlm.nih.gov/cgi-bin/sis/search2/f?./temp/~a59m5E:1

*4:[Lewis, R.J. Sr. (ed) Sax's Dangerous Properties of Industrial Materials. 11th Edition. Wiley-Interscience, Wiley & Sons, Inc. Hoboken, NJ. 2004., p. 3238] 

*5:https://toxnet.nlm.nih.gov/cgi-bin/sis/search2/f?./temp/~SHg4pf:1

*6:[Lewis, R.J. Sr. (ed) Sax's Dangerous Properties of Industrial Materials. 11th Edition. Wiley-Interscience, Wiley & Sons, Inc. Hoboken, NJ. 2004., p. 3692]

*7:https://www.answers.com/Q/What_is_the_LD50_for_water

*8:doi: 10.1136/bcr-2012-008299.

*9:https://www.s-yamaga.jp/kankyo/kankyo-osen-1.htm

*10:https://kotobank.jp/word/%E3%82%AB%E3%83%8D%E3%83%9F%E6%B2%B9%E7%97%87-45970

*11:https://www.forth.go.jp/useful/malaria.html

*12:https://www.iph.osaka.jp/s010/030/020/040/010/20180107112000.html

*13:https://toxnet.nlm.nih.gov/cgi-bin/sis/search2/f?./temp/~i3MCTQ:3

化学物質はなぜ嫌われるのか?(佐藤健太郎)(1/2)~DHMO編~

こんにちは!

 

本日ご紹介する書籍はこちら!!

ジャジャン♫

 

 

 

「化学物質はなぜ嫌われるのか ?「化学物質」のニュースを読み解く (知りたい!サイエンス 33)」 佐藤健太郎著 2008年発行

 

化学物質が嫌いな人の目を引くようなタイトルですが、

中身は逆で、(思想、性格的な意味での)化学物質アレルギーが広まりすぎている現状に警鐘を鳴らしているものです!

 

 

この「知りたい!サイエンスシリーズ」は好きでいくつか読んだことがありますが、一定の安心感がありますね。

佐藤健太郎さんはサイエンスライターという肩書で執筆活動をされています。*1

東京工業大学大学院修士課程修了後、製薬会社で研究をされていただけあって、説得力抜群の文章です!

ちなみに、同著者の「医薬品クライシス」(医薬品クライシス―78兆円市場の激震 (新潮新書))という書籍も読みましたが、とても面白かったので、いつかシェアしたいと思います。

 

 本書は

「天然由来のものしか食べたくない」

「化学物質って実際悪いの?」

「なんか漠然としすぎててモヤモヤするんだけど」

「つか、地球にある物質って全部化学物質じゃねっ?」

という方々が手に取っていただければ、非常に楽しんでいただけるのではかと思います!

 

さて、本書の内容は非常に濃くできており、全部ご紹介したいのですが、

そんなことをしていたら膨大な量になってしまいますので、

いつも通り私がワクワクしたところだけ厳選して感想を書いていきたいと思います。

2回に分けて記事にしていきます!

 

 

 

恐怖の化学物質DHMO

 本書で一番好きな個所がこの章です。(思想、性格的な意味での)化学物質アレルギーの方に対して、こんなにシンプルで強力なアンチテーゼがあるでしょうか?

 

1997年、ネイサン・ゾナーという14歳の少年が書いたあるレポートがアメリカの科学フェアで入賞しました。彼は、化学物質DHMOの害を指摘し、この物質の使用禁止を求めて、50人の大人の内、43名のサインを得ることに成功しました。

具体的な危険性は次の通りです。

 

酸性雨の主成分である

②強い温室効果を持ち、地球温暖化の原因となっている

③高レベルのDHMOにされされることで植物の成長が阻害される

④末期ガンの腫瘍細胞中にも必ず含まれている

⑤固体状態のDHMOに長時間触れていると、皮膚の大規模な損傷を引き起こす

⑥多くの金属を腐食・劣化させる

⑦自動車のブレーキや電気系統の機能低下の原因ともなる

そしてこの危険な物質はアメリカ中の恒常で冷却・洗浄・溶剤などとして何の規制もなく使用・排出され、結果として全米の湖や川、果ては母乳や南極の氷にまで高濃度のDHMOが検出されているとネイサン君は訴えました。さてあなたならこの規制に賛成し、呼びかけに応じて署名をするでしょうか?

 

はい、ここでthinking time です!!!

果たして、このHDMOとは何なのでしょうか!?

 

実は皆さんが良く知るものです。

答えはこちら↓

ジャジャン♫

答え:水(一酸化二水素)(Dihydrogen Monoxide: DHMO

 

はい、皆さんお分かりいただけたでしょうか?

実は、DHMOというまがまがしい名前の物質は、私達が良く知る、単なる”水”だったわけですね。

①~⑦の危険性について、何一つ嘘はついていない訳ですが、かなり危険な物質だと”錯覚”してしまいそうではありませんでしたか??

勿論、わざと、さも危険かのように表現しているわけですから、ある程度の”誇張”はしていますね。

しかし、通常リスクと判断されることのない、ただの”水”を題材に、これほど悪そうなイメージを植え付けることができるのですから、まさに”物は言いよう”ということを体感していただけたのではないでしょうか!?

 

 

著者は続いて次のように綴っています。

 

悪魔の証明

  「危険性を訴えることは無限にできるのに、誰もが納得できる安全証明はほとんど不可能」なのです。

 言ってみればこれは、ネス湖をいくら大規模に捜索したところで、「ネッシーはいない」という証明にはならないのと同じことです。未知の地下水路や岩陰にネッシーが隠れ潜んでいるといった可能性がゼロとはいえない以上、科学者としては「これだけ捜して骨一本見つからないのだから、いないと考えるのが妥当なのではないか」という程度のことしか言えません。「〇〇は存在する」という証明は証拠一つ挙げればいいから簡単ですが、「〇〇は存在しない」という証明は非常に難しく、これは化学物質の安全に限らず自然科学全体につきまとう問題です。

 

本当にその通りですね。

我々が義務教育で身に付けるべき素養は、こういった不確かな情報から真実を推測する能力ではないでしょうか?

特に、科学に触れたことがある方だとお分かりだと思いますが、世の中は分かっていないことだらけです。その中でも、どこまでが真実で、どこからが推測であるのかを見極めることはとても大事だと思います。すぐに、分かりやすそうな情報に飛びついてしまうのは考え物です。

 

 

さて、皆さんの周りには、DHMOはありませんか?

 

 

 

続きは次回

長くなりそうなので、続きは次回!

  

本日もお読みいただきありがとうございました!\(^o^)/

 

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TOEIC推移 390点→830点

こんにちは!

 

さて、本日はmy toeic scoreをgo to publicしちゃうぜ!(ルー大柴風)

 

マイスペックは、理系化学系院卒(修士

年齢はシークレット

 

ちなみに高校時代の英語の成績はかなり低かったです。

大学に入り、少なくとも読解程度はできないと話にならない(論文が読めない)という事実に気付き、毎日コツコツと英語の勉強を進めていきました。

残念ながら、語学の才能はありませんし、毎日死にものぐるいで取り組んできたわけでもありません。

本記事を参考にしてくだされば、平凡な大学生が、参考書使ったり、洋楽聞いたり、映画見たり、手抜きしつつゆるーい感じで勉強を進めていくとどうなるか、というところが分かるかと思います!

もちろん、ただの私の実体験ですから、皆さんにそのまま当てはまるとは限りませんが、長期的でリアルなデータです。

 

バカだし、お金もかけたくないし、のんびり英語を学びたいっていう人は、参考にしていただけるかと思います!

 

 

 

 

実際のスコア推移

 

それではいってみましょう!

ジャジャン!♫

 

f:id:Hirororo:20190407160052p:plain




 

学年年数 Listening Reading Total
1.8 220 170 390
2.3 275 270 545
2.8 270 175 445
3.3 265 265 530
3.6 260 230 490
3.8 300 305 605
4.1 280 245 525
4.2 330 295 625
5.2 305 300 605
5.3 330 365 695
5.7 315 310 625
5.8 330 340 670
6.9 405 425 830

 

 

横軸は、全て受験時を示しています。

また、グラフの線形(Total)は近似曲線です。

横軸の5.6年は修士1.2年を表します。(7年以降はありません。最後は6年目の3月、すなわち修士2年の修了(卒業)直前です)

 

1年の終わりあたりが、最低の390点、

修士2年の終わりあたりが最高の830点です。

 

※余談ですが、Rは相関の強さを表しています。

R^2=0.7931なので

R=0.891より

強い正の相関があります。*1*2

つまり年月をかけるほど成績が伸びていることが示されていますね!

 

 

結果を見て思うこと

いかがでしょうか??

 

・全然点数伸びてねーな

・まあまあ良いんじゃない?

 

などなど、思うところがあるかと思いますが。

おそらく、前者が多いんじゃないでしょうか。

 

一部のブログや英語の商材だと、数年で300点から900点になりました、みたいなことが謳われていることもあるかと思いますが、そういう驚異的に伸びる人はかなりまれだと思います。

留学とかしたら伸びるのかもしれませんが、我々凡人には普段の生活がありますからね。

あとは、驚異的に伸びる人は、初めのスコア時に手を抜きすぎてて、実際の実力を反映していないとかも考えられますね。

 

私は、残念ながらすぐに英語ができるようにはなりませんでしたが、コツコツ勉強すればそれなりに読解くらいはできるようになりました。

 

特に科学系の最新記事は、英語で読んでから、1週間後に日本でニュースになっていた、などということもありました。

もちろん、日本では取り上げられないようなことも沢山あるわけですね。

そういう情報にアクセスできるのは、英語を使いこなせる人だけです。

また、日本の話が海外で取り上げられていたら、ワクワクしたり、なんだか誇らしく思えてきたりしてしまいます。

そういうことを楽しいと思えれば、きっと勉強を継続していくことができるのではないでしょうか?

 

今から英語を使えるようにしていきたいと考えている凡人の方は、5年10年の長期スパンでやっていく覚悟があるかどうかだと思います。

何事も「継続は力なり」ですね

 

 

継続するコツは、苦にしていかないこと

 

冒頭でも述べましたが、勉強方法は、

・単語覚える(Weblio*3

・参考書解く

・洋楽聞く

・洋画見る

・英語でゲームやる(日本のやつでも英語でプレーできれば良し)

・英語の記事読む(SNSとか)

などです。

 

半分は遊んでいますね(笑)

継続していくことの一つのコツは、苦にならないことだと思います。

もちろん、バリバリ勉強して1年で使いこなせるようにできたら一番なのですが、それができたら初めから苦労はしないものです。

「好きこそものの上手なれ」と言いますから、自分が楽しくやっていけることを英語に結びつけていけば、無理なく英語の習得に繋がっていくのではないかと思います。

 

まとめ

いかがだったでしょうか?

本日は私のTOEICスコアの推移についてお話させていただきました。

 

まとめると、バカでも6年くらい英語の勉強したら、それなりに読解はできるようになる、というお話です。

 

皆様の参考になれば幸いです。 

 

本日もお読みいただきありがとうございました!\(^o^)/

 

 

 

以下は過去記事です

hirororo.hatenablog.jp