赤ちゃんのアレルギーの原因について解説~皮膚の炎症がキーポイント~

こんにちは!

 

 

今回は
”赤ちゃんの食物アレルギーの原因”
について解説していきます!

 

結論から申し上げると、
①皮膚の炎症
②経皮的なアレルゲンの接触
の二点が食物アレルギーの原因と言えます。 

 

本記事が、食物アレルギーに関わる方々の参考になれば幸いです。

 

※既にアレルギーを発症している場合は、命に関わりますので、必ず医師の指示に従ってください。

 

f:id:Hirororo:20200611233201j:plain

※画像はイメージです。本文の内容を反映しているものではありません 。

  

 

食物アレルギーの定義:そもそも食物アレルギーとは

 「食物アレルギーの診療の手引き2017」によると、以下のように定義されています。*1

定 義
食物アレルギーとは、「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象」をいう。
非免疫学的機序による食物不耐症(代謝性疾患、薬理学的な反応、毒性食物による反応など)は含まない。

 

少し専門的で分かりにくいですね。

簡単にしてみましょう。

 

「抗原特異的な免疫学的機序を介して」とは、
特定の食品に対して、体の免疫機能が作用して
と読み替えることができます。

「惹起」は「引き起こされる」という意味です。

 

すなわち、食物アレルギーとは
「特定の食品に対して、免疫機能が作用して、体に不都合な症状が出てしまうこと」
と解釈できます。

 

理解しやすくなりましたか?(^^)

 

 

食物アレルギーの原因:食物アレルギーは食べる前から始まっている!

食物アレルギーの定義は、上述の通りです。

そして
「アレルゲンとなる食物を食べると、食物アレルギーが発症する(症状が出る)」

ということは、この記事に来て下さった方なら、
当然理解されていることと思います。

 

ところが、
「そもそも、なぜアレルギー患者が、特定の食品に対してアレルギー反応を起こすようになるのか?」
という問いに答えることは、
難しいのではないでしょうか??

 

実は、食物アレルギーは、
次の2つの過程を経て発症する
ということが近年明らかになってきました。*2

 

アトピー性皮膚炎等によって
”炎症の起こっている皮膚”から、
食物アレルゲンが侵入することによって、
アレルギーを発症する準備が整う。

 

②準備が整ったアレルゲンを口から食べることで、
食物アレルギーが発症する

 

 

過去の誤った認識:昔と言ってることが違う

「いやいや、まだ腸管が未成熟な、早い時期に離乳食を食べ始めるからアレルギーになるんでしょ?」と思ったそこのあなた。

そうなんです。

実は、2000年ごろまで
専門家の間でも、
そう信じられていました。

2000年の米国小児科学会では、
乳幼児期には、アレルゲン性の高い食品を
避けることが推奨されていました。
*3

 

 

食物アレルギーのパラダイムシフト:過去の常識は覆された!

ところがどっこい。

2003年、Lackらは
それまでの常識を覆す論文を
発表しました。*4

その内容は
「ピーナッツを含む保湿オイルを塗った子供達は、ピーナッツアレルギーになる割合が約8倍に増加した。
特に、アレルギーを発症した子供の皮膚には、炎症が生じていた。」というものでした。


この発表を受けて、
食物アレルギーは皮膚から侵入することが
始まりであるとの認識が広まりました。

 

これは、専門的には”経皮感作”と呼ばれるものです。

できれば専門用語は多用したくないのですが、
これだけは、とても重要なワードなので、
是非とも覚えていただきたいです。

 

「経皮」とは
「皮膚を介して」「皮膚を通して」
という意味です。

そして「感作」とは
「アレルゲンに対して反応する準備が整う」
すなわち
「アレルギーの準備が整う」
という意味になります。

また、
ここでの「アレルギー」は
「食物アレルギー」を指します。 

 

つまり「経皮感作」とは
「皮膚を通して、食物アレルギーの準備が整う」
という意味になります。

 

2008年、Lackは世界で初めて
2重抗原曝露仮説
(dual allergen exposure hypothesis)
というものを提唱しました。*5
経皮感作の概念は、この仮説に含まれるものです。

※2020年現在では、
”仮説”というよりも
”真実”に近いだろうと思われます。

  

 

経皮感作を示唆する数々の論文:食品のアレルゲンは皮膚から侵入する

Lackらの論文を皮切りに、
経皮感作を示唆する研究が
次々と報告されています。

 

調理人・フェイスパックの経皮感作:米、小麦、果物、野菜、魚、エビ、イカ、キュウリ

例えば、2015年には、Inomataらが調理人やフェイスパックによる経皮感作を報告しています。*6

この報告では、
14名の調理人には米、小麦、果物、野菜、魚、エビ、イカなどの多様な食品が、
また1名のフェイスパックの使用者には、
含まれていたキュウリが経皮感作していました。

 

患者は、まず食品に対して接触性じんましんを発症し、
その後食物アレルギーを発症していました。

さらに、患者の86.7%にはアトピー性皮膚炎又は手の湿疹が確認されていました。

 

以上の内容より、
①様々な食品が経皮感作する
②”アトピー性皮膚炎”や”湿疹”が経皮感作のリスクになる
ということが読み取れます。

 

石鹸の経皮感作:小麦

他にも日本では、2010年頃、
加水分解小麦を含む石鹸の利用者が、
小麦の食物アレルギーを発症した事例が
相次いで報告され、社会問題となりました。*7

この事例は、石鹸中に含まれていた
小麦タンパク質に経皮感作され、
後に小麦を食べた際にアレルギーを
発症したものです。

 

化粧品の経皮感作:大豆

2015年、大豆成分含有の化粧品
利用後に大豆アレルギーを発症した報告もあります。*8

 

乳児の経皮感作:鶏卵

2016年には、
Shodaらの論文の中で
「生後1~4ヶ月の間の皮膚の炎症が、
卵アレルギーのリスクを高める」
という内容が示されています。*9

 

 

食物アレルギー診療の手引き2017

ここまで、
食物アレルギーの過去の常識が覆され、
”経皮感作”という新しい概念が誕生した
歴史についてご紹介してきました。

 

ではここで、現在の日本のガイドラインを見てみましょう。 

以下、「食物アレルギーの診療の手引き2017」からの引用です。*10

リ スク因子
 食物アレルギーの発症リスク因子として、家族歴、遺伝的素因、皮膚バリア機能、出生季節などが報告されているが、なかでも乳児期のアトピー性皮膚炎の存在が特に重要である。
 アトピー性皮膚炎のある児は健常児と比較して食物へ感作されやすい(オッズ比6.18)
食物アレルギー診療ガイドライン2016
Tsakok T, et al. J Allergy Clin Immunol 2016; 137: 1071-8.

 

「食物へ感作されやすい」とは、
簡単に言うと
「食物に対してアレルギーを起こす準備が整いやすい」
と言い換えられ、つまり
アトピー性皮膚炎があると、食物アレルギーになりやすくなる」
という意味になります。

 

したがって、やはり
「皮膚の状態を良好に保つこと」
がとても重要だと考えられるわけですね!

 

 

まとめ

以上に述べたように、
食物アレルギーに関する認識は
近年、目まぐるしく変わってきています。

 

本記事で解説したように、現在は
赤ちゃんの食物アレルギーの原因は
①皮膚の炎症
②経皮的なアレルゲンの接触
であると考えられています。

 

また、②の「経皮的なアレルゲンの接触」を減らすことは難しいです。
目に見えないような空気中のアレルゲンとの接触でも、
アレルギーのリスクになることが知られているからです。*11

 

従って、子どもの皮膚を健康に保ち
アトピー性皮膚炎等があれば早く治療する)、
①の「皮膚の炎症」をいかに早く
抑えることができるかが、
食物アレルギーの予防に
重要であると考えられます。


 

本記事が、食物アレルギーに関わる方々の参考になれば幸いです。

アレルギーで苦しむ人が、
少しでも減りますように(^^)

 

 

本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました!\(^o^)/

 

 

 

他のアレルギー関連の記事はこちら↓↓hirororo.hatenablog.jp

 

hirororo.hatenablog.jp

 

 

論文紹介はこちら↓↓

hirororo.hatenablog.jp

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*1:「食物アレルギーの診療の手引き2017」検討委員会. AMED研究班による食物アレルギーの診療の手引き2017. (2017).

*2:Lack, G. Epidemiologic risks for food allergy. J. Allergy Clin. Immunol. 121, 1331–1336 (2008).

*3:American Academy of Pediatrics. Committee on Nutrition. Hypoallergenic Infant Formulas. Pediatrics 106, 346–349 (2000).

*4:Lack, G., Fox, D., Northstone, K. & Golding, J. Factors Associated with the Development of Peanut Allergy in Childhood. N. Engl. J. Med. 348, 977–85 (2003).

*5:Lack, G. Epidemiologic risks for food allergy. J. Allergy Clin. Immunol. 121, 1331–1336 (2008).

*6:Inomata, N., Nagashima, M., Hakuta, A. & Aihara, M. Food allergy preceded by contact urticaria due to the same food: Involvement of epicutaneous sensitization in food allergy. Allergol. Int. 64, 73–78 (2015).

*7:厚生労働省. 加水分解コムギ末を含有する医薬部外品・化粧品の使用上の注意事項等について. (2010). Available at:
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000uaiu-img/2r9852000000uamo.pdf

*8:Yagami, A. et al. Case of anaphylactic reaction to soy following percutaneous sensitization by soy-based ingredients in cosmetic products. J. Dermatol. 42, 917–918 (2015).

*9:Shoda, T. et al. Timing of eczema onset and risk of food allergy at 3 years of age: A hospital-based prospective birth cohort study. J. Dermatol. Sci. 84, 144–148 (2016).

*10:「食物アレルギーの診療の手引き2017」検討委員会. AMED研究班による食物アレルギーの診療の手引き2017. (2017).

*11:Brough, H. A. et al. Peanut allergy: Effect of environmental peanut exposure in children with filaggrin loss-of-function mutations. J. Allergy Clin. Immunol. 134, 867–875.e1 (2014).

赤ちゃんのピーナッツアレルギーは予防できる~健康な皮膚・アレルゲンの早期摂取~

こんにちは!

 

今回は
”どうすれば、子どものピーナッツアレルギーを予防することができるか”
というテーマでお話していきます!

 

結論から申し上げると、
①離乳食で早くから卵を食べさせること
アトピー性皮膚炎等を改善し、皮膚の状態を良好に保つこと
の二点が重要になってきます。

 

本記事が、ピーナッツアレルギーに関わる方々の参考になれば幸いです。

 

※アレルギーを発症している場合は、必ず医師の指示を仰いでください。

 

 

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※画像はイメージです。本文の内容を反映しているものではありません 。

  

 

食物アレルギーは食べる前から始まっている!

「アレルゲンとなる食物を食べると、食物アレルギーが発症する(症状が出る)」
ということは、この記事に来て下さった方なら、
当然理解されていることと思います。

ところが、
「そもそも、なぜアレルギー患者が、特定の食品に対してアレルギー反応を起こすようになるのか?」
という問いに答えることができる方は、
どれほどいらっしゃるでしょうか??

 

実は、食物アレルギーは、
次の2つの過程を経て発症する
ということが近年明らかになってきました。*1

 

アトピー性皮膚炎等によって
”炎症の起こっている皮膚”から、
食物アレルゲンが侵入することによって、
アレルギーを発症する準備が整う。

 

②準備が整ったアレルゲンを口から食べることで、
食物アレルギーが発症する

 

 

昔と言ってることが違う

「いやいや、まだ腸管が未成熟な、早い時期に離乳食を食べ始めるからアレルギーになるんでしょ?」と思ったそこのあなた。

そうなんです。

実は、2000年ごろまで
専門家の間でも、
そう信じられていました。

2000年の米国小児科学会では、
乳幼児期には、アレルゲン性の高い食品を
避けることが推奨されていました。
*2

 

 

パラダイムシフト

ところがどっこい。

2003年、Lackらは
それまでの常識を覆す論文を
発表しました。*3

その内容は
「ピーナッツを含む保湿オイルを塗った子供達は、ピーナッツアレルギーになる割合が8倍に増加した。
特に、アレルギーを発症した子供の皮膚には、炎症が生じていた。」というものでした。


この発表を受けて、
食物アレルギーは皮膚から侵入することが
始まりであるとの認識が広まりました。

(専門的には”経皮感作”と呼ばれるものです)

 

さらに、
2008年のDu Toitらの論文によって、
「乳幼児期のアレルゲンの
摂取は避けるべき」
という常識も覆されました。*4

その内容は
「乳幼児期の早い段階で
ピーナッツを食べた子供の方が、
ピーナッツアレルギーの発症が少なかった」
というものでした。

(専門的には”経口免疫寛容”と呼ばれるものです)

 

その後、2008年、
アメリカの小児科学会のガイドラインで、
「乳幼児期に、アレルゲン性の高い食品を避けることは、
食物アレルギーの抑制に有効とはいえない」
という内容が記されるに至りました。*5

 

  

以上の研究成果より、
「皮膚を良好に保ち、
離乳食の早期から
ピーナッツを食べることで、
ピーナッツアレルギーを
予防できる可能性が高い」
という結論が導き出されます!

 

 

食物アレルギー診療の手引き2017

ここまで、
食物アレルギーの認識が
変わっていく歴史の流れについて
解説してきました。

 

では、現在の日本のガイドラインを見てみましょう。 

以下、「食物アレルギーの診療の手引き2017」からの引用です。*6

アトピー性皮膚炎のある児は健常児と比較して食物へ感作されやすい(オッズ比6.18)
食物アレルギー診療ガイドライン2016
Tsakok T, et al. J Allergy Clin Immunol 2016; 137: 1071-8.

 

「食物へ感作されやすい」とは、
簡単に言うと
「食物に対してアレルギーを起こす準備が整いやすい」
と言い換えられ、つまり
アトピー性皮膚炎があると、食物アレルギーになりやすくなる」
という意味になります。

 

したがって、やはり
「皮膚の状態を良好に保つこと」
がとても重要だと言えます。

 

食物アレルギーの発症予防のために妊娠中と授乳中の母親の食物除去を行うことを推奨しない。食物除去は母体と児に対して有害な栄養障害を来す恐れがある。

 

はっきりと
「食物除去は推奨しない」
ということが明記されています。

 

 

離乳食の開始時期については、
次のように説明されています。

生後5~6か月頃が適当(わが国の「授乳・離乳の支援ガイドライン2007」に準拠)であり、食物アレルギーの発症を心配して離乳食の開始を遅らせることは推奨されない。※1、2

 

ここでも

「離乳食の開始を遅らせることは推奨されない」
と述べられています。

 

 

さらに、ピーナッツアレルギーに関しては、
次のような注釈が添えられています。

※1 ピーナッツの導入を遅らせることがピーナッツアレルギーの進展のリスクを増大させる可能性が報告され、ピーナッツアレルギーの多い国では乳児期の早期(4~10か月)からピーナッツを含む食品の摂取を開始することが推奨されている。
Du Toit, et al. N Engl J Med 2015; 372: 803-13.

 

※2 ピーナッツ、鶏卵を生後3か月から摂取させることが、生後6か月以降に開始するよりも食物アレルギーの発症リスクを低減させる可能性が海外から報告された。
Perkin MR, et al. N Engl J Med 2016; 374: 1733-43.

 

 

つまり、
「ピーナッツの摂取が遅いほど、
ピーナッツアレルギーの発症リスクが高まる」
ということが示唆されています。

 

※ただし、
すでにアレルギーの発症が疑われる場合には、
当然ながらピーナッツの摂取は危険です。

その場合には、
医師の指示に従うことが必須ですので、
注意してください。

 

 

まとめ

以上に述べたように、
食物アレルギーに関する認識は
近年、目まぐるしく変わってきています。

 

全ての食物アレルギーに対して、
同様の概念で対応できるのかは
不明なところがありますが、
少なくとも、ピーナッツアレルギーに関しては、
①離乳食で早くからピーナッツを食べさせること
アトピー性皮膚炎等を改善し、皮膚の状態を良好に保つこと
の2点が、発症の予防にとても重要である、
ということが明らかになってきています。

 

 

本記事が、ピーナッツアレルギーに関わる方々の参考になれば幸いです。

アレルギーで苦しむ人が、
少しでも減りますように(^^)

 

 

本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました!\(^o^)/

 

 

 

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論文紹介はこちら↓↓

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*1:Lack, G. Epidemiologic risks for food allergy. J. Allergy Clin. Immunol. 121, 1331–1336 (2008).

*2:American Academy of Pediatrics. Committee on Nutrition. Hypoallergenic Infant Formulas. Pediatrics 106, 346–349 (2000).

*3:Lack, G., Fox, D., Northstone, K. & Golding, J. Factors Associated with the Development of Peanut Allergy in Childhood. N. Engl. J. Med. 348, 977–85 (2003).

*4:Du Toit, G. et al. Early consumption of peanuts in infancy is associated with a low prevalence of peanut allergy. J. Allergy Clin. Immunol. 122, 984–991 (2008).

*5:Greer, F. R., Sicherer, S. H. & Burks, A. W. Effects of Early Nutritional Interventions on the Development of Atopic Disease in Infants and Children: The Role of Maternal Dietary Restriction, Breastfeeding, Timing of Introduction of Complementary Foods, and Hydrolyzed Formulas. Pediatrics 121, 183–191 (2008).

*6:「食物アレルギーの診療の手引き2017」検討委員会. AMED研究班による食物アレルギーの診療の手引き2017. (2017).

赤ちゃんの卵アレルギーは予防できる~健康な皮膚・アレルゲンの早期摂取~

こんにちは!

 

 

今回は
”どうすれば、子どもの卵アレルギーを予防することができるか”
というテーマでお話していきます!

 

結論から申し上げると、
①離乳食で早くから卵を食べさせること
アトピー性皮膚炎等を改善し、皮膚の状態を良好に保つこと
の二点が重要になってきます。

 

本記事が、卵アレルギーに関わる方々の参考になれば幸いです。

 

※アレルギーを発症している場合は、必ず医師の指示を仰いでください。

 

f:id:Hirororo:20200607175710j:plain

※画像はイメージです。本文の内容を反映しているものではありません 。

  

 

食物アレルギーは食べる前から始まっている!

「アレルゲンとなる食物を食べると、食物アレルギーが発症する(症状が出る)」
ということは、この記事に来て下さった方なら、
当然理解されていることと思います。

ところが、
「そもそも、なぜアレルギー患者が、特定の食品に対してアレルギー反応を起こすようになるのか?」
という問いに答えることができる方は、
どれほどいらっしゃるでしょうか??

 

実は、食物アレルギーは、
次の2つの過程を経て発症する
ということが近年明らかになってきました。*1

 

アトピー性皮膚炎等によって
”炎症の起こっている皮膚”から、
食物アレルゲンが侵入することによって、
アレルギーを発症する準備が整う。

 

②準備が整ったアレルゲンを口から食べることで、
食物アレルギーが発症する

 

 

昔と言ってることが違う

「いやいや、まだ腸管が未成熟な、早い時期に離乳食を食べ始めるからアレルギーになるんでしょ?」と思ったそこのあなた。

そうなんです。

実は、2000年ごろまで
専門家の間でも、
そう信じられていました。

2000年の米国小児科学会では、
乳幼児期には、アレルゲン性の高い食品を
避けることが推奨されていました。
*2

 

 

パラダイムシフト

ところがどっこい。

2003年、Lackらは
それまでの常識を覆す論文を
発表しました。*3

その内容は
「ピーナッツを含む保湿オイルを塗った子供達は、ピーナッツアレルギーになる割合が8倍に増加した。
特に、アレルギーを発症した子供の皮膚には、炎症が生じていた。」というものでした。


この発表を受けて、
食物アレルギーは皮膚から侵入することが
始まりであるとの認識が広まりました。

(専門的には”経皮感作”と呼ばれるものです)

 

さらに、
2008年のDu Toitらの論文によって、
「乳幼児期のアレルゲンの
摂取は避けるべき」
という常識も覆されました。*4

その内容は
「乳幼児期の早い段階で
ピーナッツを食べた子供の方が、
ピーナッツアレルギーの発症が少なかった」
というものでした。

(専門的には”経口免疫寛容”と呼ばれるものです)

 

その後、2008年、
アメリカの小児科学会のガイドラインで、
「乳幼児期に、アレルゲン性の高い食品を避けることは、
食物アレルギーの抑制に有効とはいえない」
という内容が記されるに至りました。*5

 

 

卵アレルギーの場合も同様

さてさて、
前置きが長くなってしまいました。^_^;

”ピーナッツ”が、この食物アレルギーの
パラダイムシフトの先駆けでしたが、
卵アレルギーの場合も同様です。

 

2016年、
Shodaらの論文の中で
「生後1~4ヶ月の間の皮膚の炎症が、
卵アレルギーのリスクを高める」
という内容が示されています。*6
(経皮感作の示唆)

また、Fisherらは2018年の論文の中で
「乳幼児期の卵の摂取
は卵アレルギーの予防に有効である」
と結論付けています。*7

(経口免疫寛容の確認)

 

したがって、
ピーナッツアレルギーの場合と同様、
「皮膚を良好に保ち、
離乳食の早期から卵を食べることで、
卵アレルギーを予防できる可能性が高い」
という結論が導き出されます!

 

 

食物アレルギー診療の手引き2017

ここまで、
食物アレルギーの認識が
変わっていく歴史の流れについて
解説してきました。

 

では、現在の日本のガイドラインを見てみましょう。 

以下、「食物アレルギーの診療の手引き2017」からの引用です。*8

食物アレルギーの発症予防のために妊娠中と授乳中の母親の食物除去を行うことを推奨しない。食物除去は母体と児に対して有害な栄養障害を来す恐れがある。

 

はっきりと
「食物除去は推奨しない」
ということが明記されています。

 

 

離乳食の開始時期については、
次のように説明されています。

生後5~6か月頃が適当(わが国の「授乳・離乳の支援ガイドライン2007」に準拠)であり、食物アレルギーの発症を心配して離乳食の開始を遅らせることは推奨されない。

 

ここでも
「離乳食の開始を遅らせることは推奨されない」
と述べられています。

 

 

さらに、鶏卵アレルギーに関しては、
次のような提言がされています。

アトピー性皮膚炎の乳児では、鶏卵の摂取が遅いほど鶏卵アレルギーを発症するリスクが高まることから、鶏卵アレルギー発症予防を目的として、医師の管理のもと、生後6か月から鶏卵の微量摂取を開始することを推奨する。

 

鶏卵の摂取を開始する前に、アトピー性皮膚炎を寛解させることが望ましい。

 

すでに鶏卵アレルギーの発症が疑われる乳児に安易に鶏卵摂取を促すことは危険であるため、「食物アレルギー診療ガイドライン2016」に準拠した対応をする。

 

ここでも
「鶏卵の摂取が遅いほど、
鶏卵アレルギーの発症リスクが高まる」
ということが明言されています。

 

また、
アトピー性皮膚炎を寛解させることが望ましい」
と記載されており、
つまりは「皮膚の状態を良好に保つこと」
が重要であるといえます。

 

ただし、
すでにアレルギーの発症が疑われる場合には、
当然ながら鶏卵の摂取は危険です。

その場合には、
医師の指示に従うことが必須ですので、
注意してください。

 

 

まとめ

以上に述べたように、
食物アレルギーに関する認識は
近年、目まぐるしく変わってきています。

 

卵アレルギーに関しても同様で、
発症を防ぐためには、
①離乳食で早くから卵を食べさせること
アトピー性皮膚炎等を改善し、皮膚の状態を良好に保つこと
の2点が非常に重要である、
ということが明らかになってきています。

 

 

本記事が、卵アレルギーに関わる方々の参考になれば幸いです。

アレルギーで苦しむ人が、
少しでも減りますように(^^)

 

 

本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました!\(^o^)/

 

 

 

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論文紹介はこちら↓↓

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*1:Lack, G. Epidemiologic risks for food allergy. J. Allergy Clin. Immunol. 121, 1331–1336 (2008).

*2:American Academy of Pediatrics. Committee on Nutrition. Hypoallergenic Infant Formulas. Pediatrics 106, 346–349 (2000).

*3:Lack, G., Fox, D., Northstone, K. & Golding, J. Factors Associated with the Development of Peanut Allergy in Childhood. N. Engl. J. Med. 348, 977–85 (2003).

*4:Du Toit, G. et al. Early consumption of peanuts in infancy is associated with a low prevalence of peanut allergy. J. Allergy Clin. Immunol. 122, 984–991 (2008).

*5:Greer, F. R., Sicherer, S. H. & Burks, A. W. Effects of Early Nutritional Interventions on the Development of Atopic Disease in Infants and Children: The Role of Maternal Dietary Restriction, Breastfeeding, Timing of Introduction of Complementary Foods, and Hydrolyzed Formulas. Pediatrics 121, 183–191 (2008).

*6:Shoda, T. et al. Timing of eczema onset and risk of food allergy at 3 years of age: A hospital-based prospective birth cohort study. J. Dermatol. Sci. 84, 144–148 (2016).

*7:Helen R Fisher, George Du Toit, Henry T Bahnson, Gideon Lack. The Challenges of Preventing Food Allergy: Lessons Learned From LEAP and EAT. Ann Allergy Asthma Immunol. 2018 Sep;121(3):313-319. doi: 10.1016/j.anai.2018.06.008. Epub 2018 Jun 15.

*8:「食物アレルギーの診療の手引き2017」検討委員会. AMED研究班による食物アレルギーの診療の手引き2017. (2017).

レチノールとレチノイン酸の効果の違い~シワ改善・コラーゲン産生促進~(論文紹介)

こんにちは!

 

 

今回は
レチノールレチノイン酸の効果に違いはあるのか?

という疑問に答えていきたいと思います。

論文紹介です。 

 

※すぐに知りたい方は「結論」へ飛んでください。

  

 f:id:Hirororo:20200426230359j:plain

※画像はイメージです。本文の内容を反映しているものではありません 。

  

 

そもそもレチノイン酸、レチノールとは?

レチノイン酸レチノールが属する
ビタミンAのグループ(レチノイド)には
「表皮細胞の増殖促進(ターンオーバー促進) 」
等の効果があり、”シワ” ”ニキビ” ”乾癬” などを対象に、
世界中で医薬品等に利用されています。*1

またビタミンAは、目が光を感知するのに使われるため、
いわゆる「鳥目(夜盲症)」の治療にも利用されます。*2

 

 

論文紹介

ご紹介する論文はこちら!

ジャジャン!

A comparative study of the effects of retinol and retinoic acid on histological, molecular, and clinical properties of human skin.*3

 

タイトル意訳:

ヒト皮膚における
レチノールとレチノイン酸の
組織学的、分子学的及び臨床効果の比較研究

 

 

※本記事は簡潔にご紹介しています。

詳細を知りたい場合は
英語原文(https://doi.org/10.1111/jocd.12193
をご確認ください。

 

オープンアクセス

ちなみに、本論文は「オープンアクセス」です。*4

日本学術振興会によると、

論文のオープンアクセス化とは、簡潔に言うと、誰でもWebを通じて無料で自由に論文へアクセスできるようにすることです。

(中略)

論文のオープンアクセス化が拡大すれば、学術情報が様々な制約なく流通・入手することが可能となり、学術研究の発展に寄与します。また、異なる分野の研究成果に触れることも容易になるため、研究の幅が広がり、さらには、世界の国々の情報格差の解消にも役立ちます。

要するに、ネットにアクセスさえすれば、誰でも(今、この記事を見つけてくださったあなたでも)人類の英知に触れることができるよ、という素晴らしいシステムです。

興味をもった方は、是非原文を自分の目で読んでくださいね。

 

 

目的

 本研究のテーマは
レチノールレチノイン酸の効果の比較」です。

 

背景 

現在、レチノイン酸レチノールなどのレチノイドは
肌のアンチエイジングに利用されている。

(日本では、レチノイン酸は化粧品には配合禁止です)

 

1980年代中ごろ、
光老化に効果をもたらすものとして
レチノイン酸が見出された。

その後、レチノイン酸には
コラーゲン分解酵素を阻害することで、
コラーゲンの形成を助けることが発見された。

 

レチノイン酸の前駆体であるレチノールにも、
「表皮細胞の増殖促進」
マトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase: MMP)の阻害」
「コラーゲンの合成促進」
「シワ改善」
等の効果が報告されている。

 

※MMPはコラーゲン等を分解する酵素です。

 

以上の研究報告があるものの、
レチノールレチノイン酸
どちらがより効果が高いのかは明らかではない。

本研究では、
レチノールレチノイン酸
肌への効果を直接比較した。

 

 

方法

実験Ⅰ

4週間、6人の被験者の上腕部の三か所に塗布した。

塗布するものは、それぞれ以下の3通り。

 

①基剤のみを塗布

②0.1%レチノールを塗布

③0.1%レチノイン酸を塗布

 

◆組織学・分子学的な解析:

4週間後、皮膚を一部採取し
以下の解析を行った。

①HE染色

②共焦点レーザー顕微鏡

②リアルタイムPCR

③免疫染色

 

皮膚の採取は、
試験のためとはいえ痛そうです。。。

 

実験Ⅱ

41名の女性の被験者に12週間、
0.1%レチノールを使用してもらった。

◆臨床効果の解析:
12週間後、
『画像解析によるシワ評価』を行った。

シワスコアはIFSCC(国際化粧品技術者会連盟)
の基準に従って評価した。*5

 

 

結果と考察

◆組織学・分子学的な解析:

レチノールあるいはレチノイン酸
塗布した両方の部位において、
以下の結果が得られた。

①皮膚の肥厚
表皮細胞の増殖:ターンオーバーの活性化

コラーゲンを作る遺伝子の発現促進
(コラーゲンタイプ1と3の両方)

プロコラーゲンタンパク質の産生促進
(コラーゲンタイプ1と3の両方)

※プロとは、前駆体のことで、
実際に保湿効果を持つコラーゲンに
なる前の段階のタンパク質のこと。

 

ただし、その全てにおいて、
レチノールよりもレチノイン酸
の方が効果が高かった。

 

 

 ◆臨床効果の解析:

12週間の0.1%レチノールの使用により、顔面のシワが改善された。

シワスコアは、

頬で63.74%、目の周りで38.74%減少した。

  

 

結論

①本研究において、レチノールレチノイン酸と同様の組織学的な効果をもたらすことが示された。

レチノイン酸と比較したとき、レチノールの効果が少し劣っているものの、半分かそれ以上の効果は得られた。

レチノイン酸がシワを改善する作用は既に知られているが、レチノールでも同様の臨床効果が得られた。

以上のことより、
レチノールレチノイン酸に少し劣るものの、
同様の効果を発揮する
ということが示された。

 

 

まとめ

今回は、レチノールレチノイン酸の効果を比較した論文をご紹介しました!

いかがだったでしょうか??

 

結論としては、どちらも十分効果を発揮するよ!ということになります。

レチノイドには他にも様々な種類があり、
皮膚疾患の治療に使われています。*6

しかしながら、今回示されているような、
「コラーゲン産生促進作用」
「シワ改善作用」
などから、医療用医薬品のみならず、

薬用化粧品としての効果も期待されています。

 

また、本研究では、
レチノールレチノイン酸の使用により、
フィラグリン遺伝子の発現が
促進されることも明らかになりました。

このフィラグリンは皮膚保湿因子の仲間であり、
このタンパク質の機能が不十分だと、
アトピー性皮膚炎になりやすいことが
知られています。*7

  

ビタミンA(レチノイド)は肌に様々な効果をもたらしてくれるんですね(^^)

  

 

本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました!\(^o^)/

 

 

 

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*1:Zasada M, Budzisz E. Retinoids: active molecules influencing skin structure formation in cosmetic and dermatological treatments. Postepy Dermatol Alergol. 2019 Aug;36(4):392-397. doi: 10.5114/ada.2019.87443. Epub 2019 Aug 30.

*2:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%9C%E7%9B%B2%E7%97%87

*3:Kong R, Cui Y, Fisher GJ, Wang X, Chen Y, Schneider LM, Majmudar G. A comparative study of the effects of retinol and retinoic acid on histological, molecular, and clinical properties of human skin. J Cosmet Dermatol. 2016 Mar;15(1):49-57. doi: 10.1111/jocd.12193. Epub 2015 Nov 18.

*4:https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/01_seido/08_openaccess/index.html

*5:Di Qu and Yulia Park. Skin Youthfulness Index – A Novel Model Correlating Age with Objectively Measured Visual Parameters of Facial Skin. Conference: IFSCC Magazine, Volume: Vol. 17, Issue 3, p9-16

*6:Zasada M, Budzisz E. Retinoids: active molecules influencing skin structure formation in cosmetic and dermatological treatments. Postepy Dermatol Alergol. 2019 Aug;36(4):392-397. doi: 10.5114/ada.2019.87443. Epub 2019 Aug 30.

*7:Palmer CN, Irvine AD, Terron-Kwiatkowski A, Zhao Y, Liao H, Lee SP, Goudie DR, Sandilands A, Campbell LE, Smith FJ, O'Regan GM, Watson RM, Cecil JE, Bale SJ, Compton JG, DiGiovanna JJ, Fleckman P, Lewis-Jones S, Arseculeratne G, Sergeant A, Munro CS, El Houate B, McElreavey K, Halkjaer LB, Bisgaard H, Mukhopadhyay S, and McLean WH. Common loss-of-function variants of the epidermal barrier protein filaggrin are a major predisposing factor for atopic dermatitis. Nat Genet. 2006 Apr;38(4):441-6.

『ザーネ軟膏』の作用機序・効果【ビタミンA⇒レチノイン酸】

こんにちは!

 

私は幼少期からアトピー性皮膚炎を患っており、
ザーネ軟膏」というものを使っています。

 

本日は、この「ザーネ軟膏」の
効果・作用機序をご紹介していきます!

 

※結構ややこしい話なので、
途中で分からなくなった場合は、
「まとめ」に飛んでください。^_^;

 

f:id:Hirororo:20200422114813j:plain

※画像はイメージです。本文の内容を反映しているものではありません 。

 

 

 

有効成分(活性成分)の含量

さて、「ザーネ軟膏」とはどういった医薬品なのでしょうか?

 

エーザイ株式会社から発売されている医療用医薬品です。

ザーネⓇ 軟膏 0.5%の医薬品インタビューフォーム(2014 年 9 月改訂(改訂第 6 版) )によると*1
有効成分の含量は次のように定義されています。

1g中にビタミンA油 5mg(ビタミンAとして 5,000 ビタミンA単位)を含有する。

 

つまり、
ザーネ軟膏は、ビタミンAを含む外用剤と言えます。

 

 

効能又は効果

ビタミンAを有効成分とするザーネ軟膏は、
角化性皮膚疾患(尋常性魚鱗癬*2、毛孔性苔癬*3、単純性粃糠疹*4
に効果があるとされています。*5

 

 

臨床効果

上述の「効能又は効果」だけではよく分からないと思いますので、
臨床効果に関しても引用します。

本剤を尋常性魚鱗癬をはじめとする角化性並びに乾燥性の皮膚疾患を対象に一般臨床試験及び比較対照試験を実施し、その有用性が認められている。

 

色々と書かれていますが、要するに、
「乾燥性の皮膚疾患に効果がある」ということが言えるわけですね!

 

アトピーの人は皮膚が乾燥しているので、
ザーネ軟膏を処方されることもある、
ということですね!

 

 

作用部位・作用機序

気になる作用機序(薬がどのようなメカニズムで効いているのか)は、
次のように説明されています。

表皮内でレチノールがレチノイン酸に変換され作用するものと推定される。

 

おい。
「作用するものと推定される」って、
ザックリし過ぎだろ。笑

 

 

ビタミンAの効果

さて、前述の作用機序の説明では、
何がどうなっているのかさっぱり分かりませんので、

以下、もう少し詳しくご説明していきます。

 

 

ビタミンA油の定義

まず「ビタミンA油」とはなんぞや??

分かりますか?(>_<)

「ビタミンA」なら知ってるけど、油とは?

油を混ぜているんですか??って感じ。

 

実は、日本薬局方に、ビタミンA油の定義が記載されています。*6

以下、引用します。

ビタミンA油
Vitamin A Oil
本品は合成のエステル型ビタミンAに植物油を加えて希釈
したものである.
本品は1 gにつきビタミンA 30000単位以上を含む.
本品には適当な抗酸化剤を加えることができる.
本品は定量するとき表示単位の90.0 ~ 120.0%を含む.

 

要するに、ビタミンA油とは、
「ビタミンAに油を加えて希釈したもの」です。

 

すなわち、そのまんま
「ビタミンA」+「油」=「ビタミンA油」
ということでしたね!

 

細かい話ですが、
純粋なビタミンA(レチノール)は不安定なため、
エステル型にして安定化させています。*7

 

 

ビタミンAの種類

さて、ここまで、「ザーネ軟膏」には、
「ビタミンA油」≒「エステル型ビタミンA
が入っているということが分かりましたね!

 

皆さんは「レチノール」という言葉を
聞いたことがあるかもしれませんが、
狭義には「ビタミンA」=「レチノール」です。*8

つまり
エステル型ビタミンA」=「エステル型レチノール
と言えます。

 

また、ざっくり「ビタミンA」という場合には
ビタミンAのグループ(「レチノイド」と言います)
を指していることになります。

その場合は
「ビタミンA」=「レチノイド」となります。

 

さて、この「レチノイド」には沢山の種類がありますが、
主として、次の4つがあります。*9

エステル型レチノール(Retinyl Ester)

「レチノール(Retinol)」

「レチナール(Retinal)」

レチノイン酸(Retinoic Acid)

 

 

レチノイドの代謝エステル型⇒レチノイン酸)

上述のレチノイドは生体内で次のように代謝されます。*10

エステル型レチノール(Retinyl Ester)」⇔「レチノール(Retinol)」⇔「レチナール(Retinal)」⇒「レチノイン酸(Retinoic Acid)

 

エステル型からレチナールまで(両矢印:⇔)は可逆反応
レチナールからレチノイン酸(右矢印:⇒)は不可逆反応(一方通行)です。

 

 

レチノイン酸の効果

さて、このレチノイン酸には次のような様々な活性があります。*11*12

 

表皮細胞の増殖促進

コラーゲンの産生促進

⇒上記作用により「シワ改善」

 

「皮脂腺に詰まっている皮脂の除去(排出)促進」

⇒上記作用により「皮脂腺の炎症を抑制」「ニキビ改善」

 

 

まとめ(ザーネ軟膏が効く仕組み)

ここまで読んでくださって、誠にありがとうございます。

おそらく非常に
こんがらがってきていると思いますが、
ご安心ください。
以下にまとめます。

 

①「ザーネ軟膏」には有効成分として「ビタミンA油」が配合されている。

②「ビタミンA油」には「エステル型レチノール」が含まれている。

③皮膚で次のように代謝(変換)される。

エステル型レチノール(Retinyl Ester)」⇔「レチノール(Retinol)」⇔「レチナール(Retinal)」⇒「レチノイン酸(Retinoic Acid)

④「レチノイン酸」には「表皮細胞の増殖促進」「コラーゲンの産生促進」等の作用があるため、皮膚の保湿機能が補完されて乾燥性の皮膚疾患に効果がある」といえるわけですね!

 

 

以上、本日は「ザーネ軟膏」の効果・作用機序についてご紹介しました!

いかがだったでしょうか??

普段何気なく使っている薬でも、
その仕組みを理解してみると楽しくなりませんか?!(^^)!

是非、気になったことはどんどん調べてみましょう!

 

 

 

本日もお読みいただきありがとうございました!\(^o^)/

 

 

 

 

アトピー・アレルギー関連の記事はこちら↓↓
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*1:http://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1&yjcode=2649724M1039

*2:https://medicalnote.jp/diseases/%E5%B0%8B%E5%B8%B8%E6%80%A7%E9%AD%9A%E9%B1%97%E7%99%AC?utm_campaign=%E5%B0%8B%E5%B8%B8%E6%80%A7%E9%AD%9A%E9%B1%97%E7%99%AC&utm_medium=ydd&utm_source=yahoo

*3:https://medicalnote.jp/diseases/%E6%AF%9B%E5%AD%94%E6%80%A7%E8%8B%94%E7%99%AC?utm_campaign=%E6%AF%9B%E5%AD%94%E6%80%A7%E8%8B%94%E7%99%AC&utm_medium=ydd&utm_source=yahoo

*4:https://www.hospita.jp/disease/3890/

*5:http://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1&yjcode=2649724M1039

*6:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/JP17.pdf

*7:https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Retinol#section=Nonfire-Spill-Response

*8:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3A

*9:Zasada M, Budzisz E. Retinoids: active molecules influencing skin structure formation in cosmetic and dermatological treatments. Postepy Dermatol Alergol. 2019 Aug;36(4):392-397. doi: 10.5114/ada.2019.87443. Epub 2019 Aug 30.

*10:O'Byrne SM, Blaner WS. Retinol and retinyl esters: biochemistry and physiology. J Lipid Res. 2013 Jul;54(7):1731-43. doi: 10.1194/jlr.R037648. Epub 2013 Apr 26.

*11:Zasada M, Budzisz E. Retinoids: active molecules influencing skin structure formation in cosmetic and dermatological treatments. Postepy Dermatol Alergol. 2019 Aug;36(4):392-397. doi: 10.5114/ada.2019.87443. Epub 2019 Aug 30.

*12:Kong R, Cui Y, Fisher GJ, Wang X, Chen Y, Schneider LM, Majmudar G. A comparative study of the effects of retinol and retinoic acid on histological, molecular, and clinical properties of human skin. J Cosmet Dermatol. 2016 Mar;15(1):49-57. doi: 10.1111/jocd.12193. Epub 2015 Nov 18.

”アレルギーの祖父”『Dr William Frankland』~抗ヒスタミン剤と花粉飛散情報のパイオニア~

こんにちは!

 

先日、BBCニュースにて、Dr William Franklandが永眠されたことが報じられました。*1

ご冥福をお祈り申し上げます。

 

皆さんはご存知でしょうか?

実はFrankland氏は花粉症研究のパイオニアです。

本日は、Frankland氏の貢献についてご紹介したいと思います。

 

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※画像はイメージです。本文の内容を反映しているものではありません 。

 

 

アレルギーの祖父 "the grandfather of allergy"

”アレルギーの祖父” ”the grandfather of allergy"と呼ばれるFrankland氏は、
1912年3月19日にイギリスに生まれました。

なんと108歳まで長生きされ、2020年4月2日に永眠されました。*2

 

彼はアレルギーの研究に多大な貢献をし、

特に花粉症の研究のパイオニアでした。

 

花粉症と抗ヒスタミン剤

第二次世界大戦で研究から離れていた彼ですが、
1946年にロンドンのSt. Mary’s Hospitalのアレルギー部門に戻ります。

そこで、25,000~30,000人の花粉症患者を診ることになります。

 

Frankland氏は、1953年、同僚と共著で一本の論文を発表し、
世界で初めて、抗ヒスタミン剤花粉症患者に有効であることを証明しました。*3

 

実は、元嵐の二宮さんがCMしている
「アレグラ」(フェキソフェナジン)なんかも、抗ヒスタミン剤です。*4

Frankland氏の貢献がなければ、今もなお、
我々は花粉症に苦しめられていたのかもしれませんね!

 

 

花粉飛散情報

今では当たり前となった天気予報の花粉飛散情報ですが、
これもFrankland氏が世界で初めて考案したものでした。*5

 

Frankland氏は、毎日の花粉の飛散量と飛散の時間帯が患者の役に立つと考えました。

病院に植物学者を雇い、毎日の花粉量を測定してもらうようにしました。

1953年から、ロンドンの毎週の花粉量は、
British Allergy Society(英国アレルギー学会)の会員に報告されるようになりました。

そして、1963年遂に、現在、我々が天気予報で当たり前のように目にする、

メディアでの花粉飛散情報の提供が実現しました。

 

目の前の患者だけでなく、世界中の花粉症患者に寄与する、
素晴らしい業績を残した免疫学者でした。

 

 

まとめ

本日はDr William Franklandの訃報を聞き、筆を執りました。

永眠されましたが、108歳まで長生きされ、
素晴らしい人生だったのではないでしょうか。


Frankland氏のおかげで花粉症の研究は発展してきました。

特に、彼の研究により、抗ヒスタミン剤の有効性が示され、

また、花粉飛散情報がメディアで放送されるようになりました。

 

花粉症を含むアレルギーというものは、
まだまだ根本的な治療は難しいのが現状ですが、
近年は免疫療法等が注目されてきています。

Frankland氏の遺志を継ぐ者が、
また新たな時代を切り開いていくのではないでしょうか。

 

彼の多大なる貢献に心より感謝申し上げます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございました。

 

 

 

 

アレルギー関連の記事はこちら↓↓
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「おまもり」(重松清『青い鳥』より) ~”たいせつ”な思いは伝わる~

こんにちは!

 

本日ご紹介する書籍はこちら、「青い鳥」の中の「おまもり」です↓↓

(ネタバレありです)

ジャジャン♫

青い鳥 (新潮文庫)

青い鳥 (新潮文庫)

  • 作者:清, 重松
  • 発売日: 2010/06/29
  • メディア: 文庫
 

 

タイトル:おまもり

著者:重松清

出版社:新潮文庫

その他情報:平成22年7月1日発行の「青い鳥」に収載。

 

 

作品の概要

今回は、この「青い鳥」の中の3つ目、「おまもり」をご紹介します。

こちらの「青い鳥」は重松清の小説で、8つの短編が連作になっています。

重松清さんは2001年に「ビタミンF」で直木賞を受賞されている作家さんです。

 

短編の二つ目「ひむりーる独唱」についてはこちらの記事でご紹介しています。↓↓;
hirororo.hatenablog.jp

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重松清さんの作品は、平易な文章で執筆されていますので、
普段読書をしない方でも簡単に読み進めることができますよ(^^)

小学校の国語の教科書にもこの方の作品が載っていますね。

 

「おまもり」は、中学2年生の秋の物語です。

交通事故にあった、「加害者」と「被害者」の両方を描いています。

 

きっと”たいせつ”な思いは伝わる

 

読み終わると、ほっこり涙する、そんな物語です(^^)

 

 

吃音症の村内先生

さて、本書の8作は全て主人公が異なりますが、
共通する村内先生という人物が登場します。

一話完結型のドラマを観ているような感じですね。

 

この村内先生には、話すときに、どもってしまう特徴があります。

吃音症と呼ばれるものです。*1

発声時に第1音が円滑に出なかったり、ある音を繰り返したり伸ばしたり、無音が続いたりする言語障害

 

清水ちゃんと自転車事故

この物語の主人公、中学2年生の須藤杏子には、
同じ部活に所属している清水ちゃんという友達がいます。

その清水ちゃんが、自転車同士の接触事故で足を骨折し、
入院しているところから物語は始まります。

 

清水ちゃんは、自転車事故の”犯人”に当て逃げされてしまいました。

部活の試合に出られないことや、
後遺症が残る不安などから、犯人への怒りでいっぱいです。

 

”犯人”への怒りを耳にする度、
杏子は、胸に針が刺さるような感覚に見舞われます。

 

 

父と交通事故

杏子の父は12年前に自分の運転する自動車で交通事故を起こしました。

歩行者に当たり、被害者の女性は亡くなってしまいます。

 

それ以降、毎年、命日のある10月に墓参りに行くようになります。

父は、これまで11年間、ずっと一人でこの季節に墓参りをして、
自宅を訪問していました。

でも、11年間ずっと、被害者の家族には受け入れてもらえず、
毎年、手土産をそのまま持ち帰っていました。

 

事故があってから、父は、どこかに出かける度に、
交通安全の「おまもり」を杏子に買ってくるようになりました。

それは”何かのついで”はなく、
願いのこもった「おまもり」です。

 

 

 

村内先生と張り紙 

事故で”犯人”を憎んでいる清水ちゃんを見て、
杏子は”犯人”に名乗り出てくるように、事故現場の電柱に張り紙を貼ります。

 

杏子は、清水ちゃんに同情する以上に、
”犯人”のことを心配していました。

”犯人”の不運に同情していました。

 

だから、名乗り出ないと、きっと後悔してしまうから、
出てきて謝ってほしいということを張り紙に書きます。

杏子は、”犯人”にずっと”犯人”として生きてほしくなかったのです。

父の苦しさを知っているからです。

そこには、杏子の優しさが、溢れ出ていました。

 

 

そのとき、村内先生と遭遇します。

杏子は父の事情については話しませんでしたが、日曜日に部活の試合があること、
初めて試合に出られるのに、それよりも”たいせつ”な用があることを伝えます。

 

村内先生は、部活の先生に、杏子の”たいせつ”な思いを伝えます。

「たいせつな用事があるって生徒が言っているときには、そっちを優先させてやってください、ってお願いされたの」 

「……村内先生にですか?」

「そう。ゆうべ電話がかかってきてね」

 電話で――。

 あんなに言葉がつっかえたらキツいんじゃないかなあ、と思ったら、前田先生はそれを見抜いて、「何度も聞き返しちゃったけどね」とまた笑った。

「ですよね……」

「でも、伝わるのよ、村内先生が言いたいことは、ちゃんと伝わる」

 

村内先生は、杏子の両親にも電話します。

「お父さんがね、電話を代わって、自分でぜんぶ説明してた。家族を連れて行くつもりはない、っていうのもね」

 でも村内先生はお父さんに言ったらしい。「たいせつ」なことがあるというのは、とてもたいせつなことなんだから、どうか娘さんの願いをかなえてあげてください。

(中略)

「でもさ、あのさ、……あの先生ってさ、ほら、言葉つっかえてたでしょ、どもるっていうか、めちゃくちゃじゃなかった?」

 お母さんは笑ってうなづいて、「何度も聞き返しちゃったけど、言いたいことは、すごくよくわかったよ――」前田先生と同じことを、同じ笑顔で、言ったのだ。

 

言葉がつっかえても、本当に伝えたいことを一生懸命に話す村内先生の言葉は、
2人の心に響きます。

村内先生からは、本当に”たいせつ”に思っていることは、
無下にしてはいけないという信念が伝わってきます。

 

 

皆さんは、”たいせつ”な思いを飲み込んではいませんか?

 

 

おまもり

日曜日、杏子は、初めてのレギュラーで出れるはずだった部活の試合を断り、
家族とともに父の遺族のもとへ向かいました。

家族みんなでお墓参りをして、
遺族の家には、父一人で向かうことにします。

 

父を待っている間、清水ちゃんから連絡があり電話をします。

なんと、自転車事故の”犯人”が名乗り出たといいます。

大きな事故を起こしたとは気づかなかったといい、
一心に謝る”犯人”と清水ちゃんは和解します。

それから、清水ちゃんは”犯人のオジサン”と呼ぶようになります。

清水ちゃんの憎しみは、少し和らいだようでした。

 

 

清水ちゃんの嬉しい報告を受けた杏子は、
村内先生に電話をかけようとします。

そのとき、父の乗るタクシーが戻ってきます。 

父の手には、出かけたときと同じデパートの袋が提げられていました。

電話を耳から浮かせかけた、そのとき――お父さんは袋を胸に抱きかかえて、袋の中に右手を入れた。袋の形が変わる。四角い羊羹の箱ではなく、もっとモコモコした、まるい形のものが、たくさん。

袋から出した右手に、オレンジ色をしたまるいものが載っていた。

 柿だ。ヘタの上に枝の切れ端をつけた、大ぶりの柿だった。

 お父さんは照れくさそうに、ちょっと困ったように、でも、すごくうれしそうに口を動かした。

 も、ら、っ、ちゃっ、た、よ――。

 つっかえてる。お父さんの声は、聞こえなくても、聞こえる。

 電話がつながる。「はい、もしもし」と村内先生の声が耳に流れ込む。

 先生、あの、須藤です。あの、あの、あのですね、えーと、あの……。

  伝えたいことは、たくさんある。なにからしゃべろう、なにから先生に教えてあげよう。なにから先生に聞いてもらおう。

 おまもりを握りしめる。ぎゅうっと強く握って、神様の存在を少しだけ信じた。

 

タクシーで帰ってきて、行きと同じ袋を持っている父を見て、
杏子は、今年も手土産は受けとってもらえなかったと思いました。

しかし、父は、袋から手土産ではなく、嬉しそうに柿を取り出しました。

事故から12年目にして、
ようやく被害者の遺族に受け入れられたことがわかります。

遺族の方とどのようなやり取りがされたのかは語られませんが、
きっとお互いの”たいせつ”な思いを伝え合うことができたのではないでしょうか。

 

 

まとめ

本日は重松清氏の「青い鳥」より、
「おまもり」をご紹介しました!

いかがでしたか??

 

誰が悪いわけでもない、不運な現実の中で我々は生きています。

けれど、村内先生や杏子のように、”たいせつ”な思いを伝えていくことで、
そんな理不尽な世界と向き合っていくことができるかもしれませんね(^^)

 

自転車事故の加害者が名乗り出たのは、たまたまではなく、
名乗り出てほしいという思いを、杏子が張り紙にして伝えたからでした。

 

なぜ12年目にして、父が遺族に受け入れられたのか、
詳細は語られることはありません。

ですが、今年は杏子が行動を起こしました。

初めて被害者のお墓参りをして、
事故から一度も心の底から笑ったことのない父を、
もう許してやってほしいと、墓石の前で祈りました。

今年は、杏子の”たいせつ”な思いが、神様に届いたのかもしれませんね。

 

 

さて、みなさんの”たいせつ”はなんでしょうか?

それぞれの”たいせつ”のため、
村内先生や杏子のように、行動に移していきたいですね(^^)

 

重松清氏の作品は、いつまでも私の”たいせつ”な「おまもり」です。

  

 

 

本日もお読みいただきありがとうございました!\(^o^)/

 

 

 

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